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海外進出の方法にはどんな種類があるのか。メリット・デメリットをまとめてみました。
この記事の要点3行でわかる結論
- 日本の会社が海外に出る形は、駐在員事務所・海外支店・現地法人の3つです。準備だけの事務所から、現地で商売をする支店・法人へ進むにつれて、現地での納税義務と事務の負担が段階的に増えます。
- 分かれ目は「恒久的施設(PE)に当たるかどうか」です。海外支店はPEに当たるため、現地でも日本でも申告が必要になり、二重課税を外国税額控除で調整します。
- 現地法人にすると日本の会社とは別法人になり、配当は外国子会社配当益金不算入で95%が益金に入りません。その代わり移転価格税制・国外関連者への寄附金・外国子会社合算税制といった論点がついて回ります。
国内の市場が縮んでいく以上、中小企業でも海外に販路を求める場面は増えます。ただ、海外に出る方法はひとつではありません。どの形を選ぶかによって、現地で税金を納めるかどうか、日本でどこまで経費にできるか、撤退したときに損失をどう処理できるかが変わります。
この記事では、駐在員事務所・海外支店・現地法人の3つの形について、それぞれの役割と税務上の性質を整理します。どれが優れているという話ではなく、事業の段階に合った形を選ぶための材料としてお読みください。
1. 海外に出る形には、どんな種類があるか
日本の会社が海外に拠点を置くとき、形は大きく3つに分かれます。
順番に並べると、駐在員事務所は「まだ商売をしない準備の拠点」、海外支店は「日本の会社の一部として現地で商売をする拠点」、現地法人は「現地に別の会社をつくる」形です。日本の会社とのつながりが強い順でもあります。
税務の観点で見ると、この3つを分けているのは現地で事業をしているかどうかと、日本の会社と法人格が同じかどうかの2点です。この2点が決まると、現地で申告が必要か、日本でどこまで通算できるかがほぼ決まります。
2. 駐在員事務所 — 準備のための拠点
駐在員事務所は、現地に人を置いて情報収集や取引先探しを行うための拠点です。現地でテナントを借りることもあれば、派遣した社員の住居の一部を事務所として使うこともあります。
特徴は、収益活動を行わないという点です。市場調査、情報収集、現地パートナーとの接触、日本の本社への連絡といった、準備的・補助的な活動にとどまります。ここで商品を売ったり、契約を結んだりすれば、それはもう次に説明する支店と同じ扱いになります。
経費は日本の会社で負担する
売上が立たない以上、現地で生じた家賃・人件費・調査費用はすべて日本の会社が負担し、日本の法人税の申告に含めることになります。日本の会社に利益が出ていれば、その利益と相殺されます。
ただし、経費になるからといって際限なく使えるわけではありません。駐在員事務所を置く目的は、その国で将来利益を上げることです。回収できる見込みのある範囲で投資額を決めてください。
出張・渡航の費用の扱いは別に整理してある
準備段階では、役員や社員が現地へ何度も出張します。渡航費用や日当の扱いは次の記事にまとめています。
相手国との租税条約を最初に見る
どの形を選ぶ場合でも、日本とその国との間に租税条約があるかどうか、あるとして何が書かれているかを最初に確認してください。条約は国ごとに内容が違い、後で説明する恒久的施設の範囲や配当・利子・使用料の源泉税率もここで決まります。締結国の一覧と条約の本文は財務省が公開しています。
財務省租税条約に関する資料
3. 海外支店 — 恒久的施設(PE)に当たる
海外支店は、日本国内に東京支店・大阪支店を置くのと同じ発想で、海外に置く支店です。駐在員事務所と違い、現地で通常どおり商売ができます。
恒久的施設(PE)とは何か
国際課税では、支店のような拠点を恒久的施設(PE=Permanent Establishment)と呼びます。日本の法令では、非居住者や外国法人が日本国内に持つPEを次の3種類に区分しています。
- 事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場、作業場など、事業を行う一定の場所
- 1年を超えて行う建設・据付けの工事や、その指揮監督を行う場所
- その事業に関し、反復して契約を締結する権限を持つなど、一定の要件に当たる代理人
物品や商品の保管・展示・引渡しのためだけに使う施設は、それが準備的・補助的な性格のものであれば上の1つ目・2つ目には含まれません。駐在員事務所がPEに当たらないとされるのは、この考え方によります。判定は形式ではなく機能で行うとされており、たとえば活動の拠点になっているホテルの一室はPEに当たり、単なる製品の貯蔵庫は当たりません。
ここで注意していただきたいのは、この定義は日本に入ってくる側のルールだということです。日本の会社が海外に支店を置く場合、PEに当たるかどうかを判断するのは進出先の国の法令です。ただし、日本とその国との間に租税条約があり、その条約が国内法と異なる定めを置いているときは、条約の定めが優先されます。日本の法令でも、租税条約に国内法と異なる定めがある場合は条約上のPEによることとされています。
租税条約では、事業から生じる所得は、その国にPEがなければ原則としてその国では課税されないという考え方が採られています。「PEなければ課税なし」と言われるのはこのためです。ただし範囲や例外は条約ごとに異なりますので、進出先の条約本文を確認してください。
日本では全世界所得を申告する
日本の法人税は、内国法人については所得の生じた場所を問わず課税する仕組みです。海外支店で稼いだ利益も、日本の本店の利益と合算して日本で申告します。国内に本店と支店がある場合と同じことです。
e-Gov法人税法(4条・5条 納税義務者・課税所得等の範囲)
実務では、現地通貨で行った取引を円に換算し直す作業が発生します。換算のルールと、社内で使うレートの決め方は次の記事にまとめています。
現地でも申告するため、二重課税になる
海外支店はPEに当たりますから、現地でも申告と納税が必要です。同じ利益に日本と現地の2か国が課税することになり、これを二重課税と呼びます。現地の税理士や会計事務所に依頼するコストもかかります。
二重課税を調整する仕組みが外国税額控除です。現地で納めた外国法人税を、日本の法人税から一定の限度額まで差し引きます。控除しきれなかった分は繰り越すこともできます。
国税庁法人税基本通達 第16章第3節第2款 外国法人税の控除
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撤退したときの損失は日本の会社の損失になる
支店は日本の会社の一部ですから、撤退にかかった費用や現地で出た赤字は、そのまま日本の会社の損失になります。日本の事業で利益が出ていれば相殺されます。次に説明する現地法人との一番大きな違いがここです。
4. 現地法人 — 現地に別会社をつくる
現地法人は、進出先の国の法律に従って新しく会社を設立する形です。日本の会社が出資すれば子会社、社長個人が出資すれば日本の会社とは資本関係のない兄弟会社になります。
日本の会社とは別の法人ですから、資金は明確に分けて管理し、売上も経費もそれぞれの会社で申告します。日本の会社の資金を現地法人の支払いに使う、といった運用をしていると、後で説明する寄附金の問題になります。
利益を配当で戻すときは、ほとんど課税されない
現地法人の利益は現地で課税されます。その税引後の利益を配当として日本の親会社に戻すとき、そのまま日本でも課税すると二重課税になります。これを調整するのが外国子会社配当益金不算入制度です。
適用の要件は、株式等の保有割合が25%以上であること、その状態が配当等の支払義務が確定する日以前6か月以上継続していることです。要件を満たすと、受け取った配当の95%が益金に算入されません(残る5%は費用相当額として扱われます)。
国税庁外国子会社から受ける配当等の益金不算入規定の適用がある外国子会社の判定
e-Gov法人税法(23条の2 外国子会社から受ける配当等の益金不算入)
なお、相手国との租税条約に二重課税を排除する条項があり、そこで保有割合が軽減されている国があります。国税庁の上記ページには、アメリカ10%、フランス15%、ブラジル10%、オーストラリア10%、オランダ10%、カザフスタン10%という例が挙げられています。25%に届かないから使えない、と早合点しないでください。
制度の詳しい中身は別の記事にまとめています。
撤退したときの損失は日本の会社の経費にならない
現地法人が赤字のまま撤退した場合、その赤字は現地法人のものであって、日本の会社の損失にはなりません。出資した株式に価値がなくなった分をどう処理するかという別の問題になります。支店と現地法人を比べるとき、実務上いちばん大きな差が出るのがここです。
やました君
「現地の法人税率が低いから現地法人にしたい」というご相談をよくいただきます。税率だけを見ると確かに有利に見えますが、赤字の期間は日本の利益と通算できません。立ち上げから黒字化までに何年かかるか、その間の赤字をどこで受け止めるか。この2つを先に決めてから形を選んでください。
5. 現地法人をつくると、どんな税務の論点が出てくるか
別会社をつくると、日本の会社と現地法人の間の取引が「グループ内の取引」になります。ここに独特の規制がかかります。代表的なものを4つ挙げます。
移転価格税制
日本の会社と国外関連者との取引の価格が、第三者との間で成立するはずの価格(独立企業間価格)と違っていて、日本の課税所得が減っている場合には、独立企業間価格で取引したものとして所得を計算し直す制度です。
ここでいう国外関連者とは、発行済株式等の50%以上を直接または間接に保有する親子関係、同一の者に50%以上を保有される兄弟関係、あるいは役員の兼務などによる実質的支配関係にある外国法人をいいます。
中小企業では「安く売ってあげた」「無償で技術を教えた」といった形で問題になります。グループ内だからと価格を緩めるのではなく、第三者との取引と同じ考え方で価格を決め、その根拠を残してください。
国外関連者に対する寄附金
日本の会社が現地法人の費用を肩代わりしたり、債権を放棄したりすると、寄附金として扱われる可能性があります。寄附金は損金算入に限度額があり、限度を超えた部分は損金になりません。
「立ち上げの間だけ日本で面倒を見る」という判断をするときは、支援の内容を契約書に落とし、対価をとるのか贈与するのかをはっきりさせておいてください。
過小資本税制・過大支払利子税制
現地法人への資金提供を、出資ではなく貸付けの形にして利子を払わせると、その利子は現地法人の経費になります。この形を使いすぎることへの規制が租税特別措置法に置かれています。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
税負担の著しく低い国に会社をつくり、そこに所得を溜めることで日本の課税を免れる動きに対応するため、一定の外国関係会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度があります。
この制度は、対象となる会社の判定、経済活動基準、部分合算課税の範囲など、要件が細かく、改正も重ねられています。制度の存在をここで押さえておいていただき、実際に該当するかどうかは、進出先と持株構成が決まった段階で顧問税理士に確認してください。
国税庁国際税務関係情報
6. 3つの形の比較
| 駐在員事務所 | 海外支店 | 現地法人 | |
|---|---|---|---|
| 現地での商売 | できない(準備・情報収集のみ) | できる | できる |
| 法人格 | 日本の会社の一部 | 日本の会社の一部 | 現地の別法人 |
| 恒久的施設(PE) | 原則として当たらない | 当たる | そもそも現地の法人 |
| 現地での申告・納税 | 原則なし | 必要 | 必要 |
| 日本での申告 | 経費を日本の会社で計上 | 利益・損失とも日本の会社に合算 | 別法人のため合算しない |
| 二重課税の調整 | — | 外国税額控除 | 配当は外国子会社配当益金不算入 |
| 撤退したときの損失 | 日本の会社の損失 | 日本の会社の損失 | 日本の会社の損失にならない |
| 主な追加論点 | 収益活動をしていないかの確認 | 円換算・現地申告のコスト | 移転価格・寄附金・合算税制 |
表のとおり、現地で自由に商売できる形ほど、現地での納税義務と事務が増えます。逆に、日本の会社と一体である形ほど、赤字の期間を日本の利益で受け止めやすくなります。
7. どの順で進め、何に気をつけるか
順序としては、駐在員事務所で情報とパートナーを探し、見込みが立てば海外支店で商売を始め、単独で採算が取れるようになったら現地法人にする、という流れが分かりやすい形です。もちろん、現地の法規制で最初から法人設立が必要な国もありますので、進出先ごとに確認してください。
- 駐在員事務所で契約行為をしない。準備的・補助的な活動を超えると、現地でPEと認定され、遡って申告を求められる可能性があります。活動の範囲を社内で文書にしておいてください。
- 租税条約を先に読む。PEの範囲、配当・利子・使用料の源泉税率、二重課税の排除方法が書かれています。
- 現地の申告コストを事業計画に入れる。現地の会計事務所への報酬、監査、法定帳簿の作成は、進出の判断を左右する規模になることがあります。
- グループ内取引の価格と根拠を残す。移転価格と寄附金は、後から資料を作れません。取引を始める前に決めてください。
- 日本側の担当を決める。円換算、外国税額控除の資料、現地からの報告の受け取りを誰が担当するかを最初に決めておくと、決算期に慌てません。
やました君
形を決める前に、5年分の資金計画を作ってください。「いつ黒字になるか」ではなく「黒字になるまでにいくら必要か」です。この金額が日本の会社で用意できる範囲を超えているなら、進出そのものの時期を見直したほうがよい場合もあります。
8. まとめ
- 海外に出る形は、駐在員事務所・海外支店・現地法人の3つ。現地で商売をするか、法人格が日本の会社と同じかで性質が決まる。
- 駐在員事務所は収益活動を行わない準備の拠点。経費は日本の会社で計上する。
- 海外支店は恒久的施設(PE)に当たるため、現地でも申告が必要。日本では全世界の所得を合算して申告し、二重課税は外国税額控除で調整する。
- 現地法人は別法人。配当を戻すときは、持株25%以上・6か月以上の保有で95%が益金不算入になる。
- 現地法人にすると、移転価格税制・国外関連者への寄附金・過小資本税制・外国子会社合算税制がついて回る。
- 撤退時の損失を日本の会社で受け止められるのは支店まで。現地法人の赤字は日本の会社の損失にならない。
- どの形でも、最初に租税条約を確認する。PEの範囲も源泉税率も条約で変わる。
海外との取引が始まると、消費税や為替の論点も出てきます。関連する記事を挙げておきます。
海外進出の形を決める前に、税務面を整理しておきたい場合
当事務所では、進出形態ごとの税負担の比較、租税条約の確認、現地法人との取引の設計をご相談いただけます。ご相談はこちら
よくある質問
海外に進出する形には、どんな種類がありますか?
駐在員事務所・海外支店・現地法人の3つです。駐在員事務所は商売をしない準備の拠点、海外支店は日本の会社の一部として現地で商売をする拠点、現地法人は現地に別の会社をつくる形です。現地で自由に商売できる形ほど、現地での納税義務と事務の負担が増えます。
駐在員事務所なら、現地で税金を納めなくてよいのですか?
収益活動を行わず、市場調査や情報収集といった準備的・補助的な活動にとどまる限り、原則として恒久的施設(PE)に当たらず、現地での申告は生じません。ただし判定は形式ではなく機能で行われます。現地で商品を売ったり契約を結んだりすれば支店と同じ扱いになり、遡って申告を求められる可能性があります。
海外支店にすると、日本ではどう申告しますか?
海外支店の利益も日本の本店の利益と合算して、日本で申告します。内国法人は所得の生じた場所を問わず課税されるためです。海外支店はPEに当たるので現地でも申告と納税が必要になり、同じ利益に2か国が課税します。この二重課税は、現地で納めた外国法人税を日本の法人税から一定の限度額まで差し引く外国税額控除で調整します。
撤退したときの損失は、どの形なら日本の会社の損失になりますか?
駐在員事務所と海外支店です。どちらも日本の会社の一部なので、撤退費用や現地の赤字はそのまま日本の会社の損失になり、日本の利益と相殺されます。現地法人の赤字は現地法人のものであり、日本の会社の損失にはなりません。支店と現地法人の実務上いちばん大きな差がここです。
現地法人からの配当は、日本でどう課税されますか?
外国子会社配当益金不算入制度により、受け取った配当の95%が益金に算入されません(残る5%は費用相当額として扱われます)。要件は、株式等の保有割合が25%以上で、その状態が配当等の支払義務が確定する日以前6か月以上継続していることです。租税条約でこの割合が軽減されている国もあるため、25%に届かなくても条約を確認してください。
<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。進出先の国の税制や租税条約の内容は国ごとに異なりますので、個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。





