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輸出売上でお金を先にもらう前受金。決算で残っていても為替の再計算する必要なし!

この記事の要点3行でわかる結論

  • 外貨建ての前受金は、受け取った日の為替レートで円換算した金額のまま動きません。決算日が来ても換算し直しません。法人税基本通達13の2-2-1が、前受金は「外貨建債権債務に含まれない」と定めています。
  • 船積みで売上に振り替えるときも、前受金の部分は帳簿価額をそのまま使います。売上高は「前受金の帳簿価額 + 残額 × 船積日レート」であって、契約全額に船積日のレートを掛けた金額ではありません。
  • 期末に換算し直すのは、船積み後に残った売掛金のほうです。円安が続く局面では前受金の残高が大きくなりがちで、換算する・しないの取り違えがそのまま決算の利益を動かします。

輸出は、船積みから代金の回収まで時間がかかります。相手が海外の会社である以上、貸倒れのリスクもあります。そこで、契約時や船積み前に代金の一部を先に受け取る取引が広く行われています。この先にもらったお金が「前受金」です。

外貨建ての前受金には、国内取引にはない論点があります。決算日をまたいで残っていても、期末の為替レートで換算し直さないという点です。売掛金は換算し直すのに、前受金は換算し直さない。この違いを取り違えると、決算の利益がそのまま動きます。

この記事では、前受金を受け取ってから売上に振り替え、残額を回収するまでの流れを仕訳で追いながら、それぞれの時点でどのレートを使うのかを整理します。輸入で先にお金を払う「前渡金」も考え方は同じで、そちらは別の記事で扱っています。

1. 前受金は、受け取った日のレートで円換算する

外貨建取引の円換算は、原則としてその取引を計上すべき日の為替レート(対顧客直物電信売買相場の仲値、TTM)によります。法人税法61条の8第1項が定めるルールで、前受金の受取りもこれに従います。

e-Gov法人税法(61条の8 外貨建取引の換算)

国税庁法人税基本通達 第13章の2 第1節 外貨建取引に係る会計処理等(13の2-1-2)

取引日当日のレートでなければならないわけではありません。継続して使うことを条件に、前月の平均レートや前月末のレートを使うこともできます。社内で使うレートの決め方は次の記事にまとめています。

この記事では、3月決算の法人が次の輸出取引を行ったものとして話を進めます。

  • 2026年11月20日 アメリカの会社と3万ドルの商品売買を契約し、頭金として1万ドルを受け取った(TTM 150円)
  • 2027年2月10日 商品の船積みが完了した(TTM 155円)
  • 2027年3月31日 決算日(TTM 160円)
  • 2027年5月15日 残額2万ドルが入金された(TTM 158円)
前受金がある輸出取引で、どのレートを使うか前受金 150円で固定前受金 1万ドル2026年11月20日/150円船積み(売上計上)2027年2月10日/155円決算日2027年3月31日/160円残額 2万ドル入金2027年5月15日/158円
前受金は受け取った日の150円のまま動きません。動くのは船積み後に残った売掛金だけです

まず、頭金を受け取ったときの仕訳です。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
普通預金1,500,000円前受金1,500,000円2026/11/20 1万ドル × 150円 輸出契約の頭金

この時点では、まだ商品を引き渡していません。売上には計上しませんし、消費税の課税関係も生じません。消費税では、資産の譲渡等を現実に行った時が売上の時期とされているためです(消費税法基本通達9-1-27)。

国税庁No.6165 前受金や前払金などがあるとき

2. 船積みのとき、前受金は帳簿価額のまま売上に振り替える

2027年2月10日に船積みが完了し、売上を計上します。ここが最初の分かれ目です。

売上の円換算額は、次の2つを足したものになります。

売上の円換算額は「前受金の帳簿価額 + 残額の船積日レート」前受金として受け取った1万ドル分(帳簿価額)1,500,000円船積日に確定する残り2万ドル × 155円3,100,000円輸出売上に計上する金額4,600,000円
3万ドル全額に船積日の155円を掛けると4,650,000円になり、50,000円ずれます

仕訳にすると、こうなります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
前受金1,500,000円輸出売上4,600,000円2027/2/10 船積完了 3万ドル
売掛金3,100,000円残額2万ドル × 155円

売掛金は「3万ドル × 155円 − 前受金1,500,000円」ではありません。まだ受け取っていない2万ドルに船積日のレートを掛けた3,100,000円です。この2つは50,000円ずれます。

この処理の根拠は、法人税基本通達13の2-1-5(前渡金等の振替え)です。「その取引に関して受け入れた前受金又は支払った前渡金があるときは、当該前受金又は前渡金に係る部分については、当該前受金又は前渡金の帳簿価額をもって収益又は費用の額とし、改めてその収益又は費用の計上日における為替相場による円換算を行わないことができる」と定められています。

国税庁法人税基本通達 13の2-1-5(前渡金等の振替え)

条文上の原則である「取引日のレートで換算する」に対して、前受金の部分は帳簿価額のままでよいことを認めた取扱いです。会計上も、外貨建取引の会計処理では前受金・前渡金を受け取った時のレートで固定する考え方が採られており、実務ではこちらが一般的です。いずれの方法を採るにしても、期ごとに切り替えるのではなく、継続して同じ方法を使ってください。


やました君

ここは会計ソフトが自動でやってくれない部分です。ドル建ての請求書を取り込むと、契約全額に船積日のレートを掛けた金額が売上として出てくることがあります。前受金があるときは、必ず「前受金の残高はいくらか」を見てから売上金額を確定させてください。

3. 決算日に換算し直すのは、どちらか

決算日に外貨建ての残高があるとき、換算し直す対象は法人税法61条の9で決まっています。同条1項1号は、対象となる「外貨建債権」を外国通貨で支払を受けるべきこととされている金銭債権、「外貨建債務」を外国通貨で支払を行うべきこととされている金銭債務と定義しています。ほかに外貨建有価証券、外貨預金、外国通貨が対象です。

e-Gov法人税法(61条の9 外貨建資産等の期末換算差益又は期末換算差損の益金又は損金算入等)

前受金は、将来お金を支払う義務ではありません。商品を引き渡す義務です。前渡金も、お金を受け取る権利ではなく、商品を受け取る権利です。どちらも「金銭債権」「金銭債務」に当たらないため、期末換算の対象から外れます。国税庁の通達も、この点をはっきり書いています。

外貨建取引に関して支払った前渡金又は収受した前受金で資産の売買代金に充てられるものは、外貨建債権債務に含まれない。ただし、外貨建取引に係る未収収益又は未払費用は、外貨建債権債務に該当するものとして取り扱う。(法人税基本通達13の2-2-1)

国税庁法人税基本通達 第13章の2 第2節 外貨建資産等の換算等(13の2-2-1)

決算で換算し直すもの・し直さないもの外貨建ての資産・負債期末に換算し直す売掛金・買掛金・外貨預金など期末に換算しない前受金・前渡金
法人税法61条の9の対象は「外貨建債権債務」など。前受金と前渡金はここに含まれません

ただし書きにあるとおり、未収収益と未払費用は外貨建債権債務として扱われ、期末換算の対象になります。前受金・前渡金と未収収益・未払費用を同じ「経過勘定」としてひとまとめに考えると、ここで判断を誤ります。

なお、期末換算の方法には発生時換算法と期末時換算法があり、外国通貨の種類ごと・区分ごとに届出書で選定します。届け出ていない場合の法定の方法は、決済期限が1年以内の短期外貨建債権債務と満期1年以内の外貨預金は期末時換算法、それ以外は発生時換算法です(法人税法施行令122条の4、122条の7)。通常の売掛金・買掛金は短期に当たりますので、届出をしていなくても期末のレートで換算し直すことになります。

e-Gov法人税法施行令(122条の4・122条の7)

国税庁C1-45 外貨建資産等の期末換算方法等の届出

4. 決算・翌期の決済まで仕訳で追う

ケースA 船積みが済んでいて、売掛金が残っている

先ほどの例では、決算日に売掛金2万ドル(帳簿価額3,100,000円)が残っています。決算日のレートは160円ですから、期末時換算法で3,200,000円に換算し直します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
売掛金100,000円為替差益100,000円2027/3/31 2万ドル ×(160円 − 155円)

この期末換算差益は、翌事業年度に反対仕訳で戻します(洗替処理。法人税法施行令122条の8第1項・第4項)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
為替差益100,000円売掛金100,000円2027/4/1 期末換算差額の戻し(洗替)

戻したあとの売掛金は3,100,000円です。5月15日に2万ドルが入金され、その日のレートが158円であれば、円貨での入金額は3,160,000円になります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
普通預金3,160,000円売掛金3,100,000円2027/5/15 残額2万ドル × 158円
為替差益60,000円2万ドル ×(158円 − 155円)

ケースB 決算日までに船積みが終わらず、前受金が残っている

同じ取引で、船積みが決算日の後になったとします。決算日には前受金1万ドル(帳簿価額1,500,000円)が残っています。決算日のレートは160円ですから、160万円に換算し直したくなるところです。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額摘要
2027/3/31 決算整理仕訳なし。前受金は1,500,000円のまま

もし誤って160万円に換算し直すと、為替差損100,000円が立ちます。前受金は将来お金で返すものではなく商品で返すものですから、レートが動いても会社の損得は発生していません。決算書にも法人税の所得にも、あってはならない100,000円です。


やました君

決算前に、外貨建ての残高がある勘定科目を一覧にしてください。売掛金・買掛金・外貨預金・借入金は換算し直し、前受金・前渡金は触らない。この2列に分けたメモを作業ペーパーに残しておくと、翌期の担当者が変わっても処理がぶれません。

5. 円安局面では、どんな取り違えが起きやすいか

近年の円安局面では、輸出の前受金が数千万円規模になることも珍しくありません。金額が大きくなるほど、換算する・しないの取り違えが決算に与える影響も大きくなります。実際によく見かけるのは次の3つです。

  • 会計ソフトの一括換算機能を、前受金にもかけてしまう。外貨建て残高を期末レートで一括評価替えする機能は便利ですが、対象科目の指定を確認しないと前受金・前渡金まで拾います。
  • 売上を契約全額 × 船積日レートで計上してしまう。前受金の帳簿価額を使わないため、売上高と売掛金の両方がずれます。
  • 前受金を「仮受金」や「預り金」で処理してしまう。科目名が変わっても、商品の引渡し義務であることに変わりはありません。実質で判断します。

外貨建ての売上・仕入の基本的な会計処理は、次の記事でも整理しています。

6. 消費税の免税売上高にも、同じ円換算額を使う

輸出売上は消費税が免除されるため、円換算額が多少ずれても納める消費税は変わらないと思われがちです。しかし、免税売上高は課税売上割合の計算に入りますし、申告書にも記載します。金額は正しく出す必要があります。

消費税の課税標準となる対価の額は、法人税・所得税で円換算して計上すべき金額によることとされています(消費税法基本通達10-1-7)。つまり、前受金の部分を帳簿価額で固定した4,600,000円が、そのまま消費税の免税売上高になります。決済時に生じる為替差損益は、資産の譲渡等の対価にも課税仕入れの支払対価にも当たらず、消費税の対象外です。

国税庁質疑応答事例 外貨建取引の課税標準

国税庁No.6325 外貨建取引の取扱い

国税庁No.6551 輸出取引の免税

輸出売上がある会社は、国内で支払った消費税が還付されます。仕組みは次の記事をご覧ください。

7. 個人事業者の場合は、どう変わるか

個人事業者にも、前受金の部分を帳簿価額のまま収入に振り替える取扱いが用意されています。所得税基本通達57の3-5(前渡金等の振替え)が、法人税基本通達13の2-1-5と同じ内容を定めています。

国税庁所得税基本通達 法第57条の3《外貨建取引の換算》関係(57の3-5)

もうひとつ、法人と大きく違う点があります。所得税法57条の3は取引を行った時の換算だけを定めており、法人税法61条の9のような期末換算の規定が置かれていません。個人事業者は、前受金はもちろん、売掛金や買掛金についても年末に換算し直す規定がないということです。

e-Gov所得税法(57条の3 外貨建取引の換算)

法人成りを予定している個人事業者や、法人と個人の両方で輸出をしている方は、同じ取引でも決算・確定申告での扱いが変わります。ここは顧問税理士に確認してください。

8. まとめ

  • 外貨建ての前受金は、受け取った日のレートで円換算した金額のまま動かさない。決算日が来ても換算し直さない。
  • 根拠は法人税法61条の9の「外貨建債権債務」の定義(金銭債権・金銭債務であること)と、法人税基本通達13の2-2-1。
  • 船積みで売上に振り替えるときは、前受金の帳簿価額をそのまま使う。売上高は「前受金の帳簿価額 + 残額 × 船積日レート」。
  • 期末に換算し直すのは、船積み後に残った売掛金のほう。期末換算差損益は翌期首に洗替で戻す。
  • 未収収益・未払費用は前受金とは違い、期末換算の対象になる。
  • 消費税の免税売上高も、法人税で計上した円換算額を使う。為替差損益は消費税の対象外。
  • 個人事業者は、そもそも期末換算の規定自体がない。

輸入で先にお金を払った場合の前渡金は、まったく同じ考え方で処理します。

外貨建ての残高が決算で正しく処理されているか確認したい場合

当事務所では、貿易取引を行う会社の会計・消費税の点検を行っています。過去の決算にさかのぼった確認にも対応しています。ご相談はこちら

よくある質問

外貨建ての前受金は、決算日に換算し直しますか?

換算し直しません。受け取った日のレートで円換算した帳簿価額のまま動かします。法人税基本通達13の2-2-1が、資産の売買代金に充てられる前受金・前渡金は外貨建債権債務に含まれないと定めているためです。前受金は将来お金を払う義務ではなく、商品を引き渡す義務だからです。

前受金があるとき、輸出売上の円換算額はどう計算しますか?

「前受金の帳簿価額 + 残額 × 船積日のレート」です。契約全額に船積日のレートを掛けた金額ではありません。3万ドルの契約で1万ドルを150円のときに受け取り、船積日が155円なら、売上は150万円+310万円=460万円になります。根拠は法人税基本通達13の2-1-5(前渡金等の振替え)です。

前受金と未収収益は、同じ扱いですか?

違います。法人税基本通達13の2-2-1のただし書きが、外貨建取引に係る未収収益・未払費用は外貨建債権債務に該当すると定めており、期末換算の対象になります。前受金・前渡金と未収収益・未払費用を「経過勘定」としてひとまとめに考えると、ここで判断を誤ります。

前受金を仮受金や預り金で処理していれば、換算し直してよいですか?

科目名を変えても扱いは変わりません。商品の引渡し義務であることに変わりはないため、実質で判断し、換算し直しません。会計ソフトの一括評価替え機能は対象科目を指定しないと前受金・前渡金まで拾うので、決算前に対象科目の設定を確認してください。

消費税の免税売上高は、どの円換算額を使いますか?

法人税・所得税で円換算して計上すべき金額をそのまま使います(消費税法基本通達10-1-7)。前受金の部分を帳簿価額で固定した金額が、そのまま輸出免税売上高になります。決済時に生じる為替差損益は、資産の譲渡等の対価にも課税仕入れの支払対価にも当たらず、消費税の対象外です。

<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。