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海外投資をしている富裕層の追徴は、ふつうの調査の5.3倍|令和6事務年度の国税庁データ

この記事の要点3行でわかる結論

  • 海外投資等を行っている富裕層への調査は、1件あたりの追徴税額が1,595万円。所得税の実地調査全体(299万円)の5.3倍です。
  • 海外投資等を行っている個人全体でも、申告漏れ所得の総額は922億円で、前年より38.9%増えています。
  • 税務署は国外送金等調書とCRS情報を突き合わせて調査先を選んでいます。海外の口座と不動産は、申告していなくても把握されている前提で考えてください。

海外に資産を持っていると、税務調査の追徴税額はふつうの5.3倍になります。

国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」の数字です。海外投資等を行っている富裕層への調査は、1件あたりの追徴税額が1,595万円。所得税の実地調査全体の平均299万円に対して、5.3倍にあたります。

なぜここまで差がつくのか。そして、税務署はどうやって海外の資産を把握しているのか。公表された数字と調査事例から整理します。

1. 数字で見ると、差は明らかです

調査1件あたりの追徴税額(令和6事務年度)所得税の実地調査(特別・一般)全体299万円富裕層855万円海外投資等を行っている個人866万円海外投資等を行っている富裕層1,595万円
海外投資が入ると、実地調査全体の5.3倍になります。
区分1件当たり
申告漏れ所得
1件当たり
追徴税額
全体との比
所得税の実地調査(特別・一般)全体1,486万円299万円—
富裕層3,449万円855万円2.9倍
海外投資等を行っている個人3,459万円866万円2.9倍
海外投資等を行っている富裕層—1,595万円5.3倍

令和6事務年度(令和6年7月1日〜令和7年6月30日)。国税庁の公表資料より。

富裕層だけでも2.9倍ですが、そこに海外投資が加わると5.3倍になります。「資産が多いから」ではなく、「海外にあるから」の部分が効いている、ということです。

2. 総額も伸びています

令和5事務年度令和6事務年度前年比
調査件数2,584件2,666件103.2%
申告漏れ所得金額664億円922億円138.9%
追徴税額168億円231億円137.5%

海外投資等を行っている個人に対する調査の状況。

調査件数は3%しか増えていないのに、申告漏れ所得は39%増えています。1件あたりで拾える金額が大きくなっている、つまり選び方の精度が上がっている、ということです。

国税庁令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(令和7年12月)

3. 国税庁が言う「富裕層」とは

国税庁の資料には、こう書かれています。

有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に行っている個人など

「資産◯億円以上」といった金額の線引きは公表されていません。ただ、この3つのどれかに当てはまる方は、対象に含まれていると考えておくのが自然です。

とくに3つめの「海外投資等を積極的に行っている個人」は、資産額そのものより海外との関わりがあるかどうかで拾われる書き方になっています。

4. 取引の中身で、申告漏れの大きさが全然違う

海外取引を、国税庁は4つに分けて集計しています。1件あたりの申告漏れ所得金額はこうです。

取引区分内容1件当たり
申告漏れ所得
役務提供工事請負、プログラム設計など海外で行うサービスの提供4,567万円
海外投資海外の不動産・証券などへの投資(預貯金等の海外での蓄財を含む)3,209万円
その他海外で支払を受ける給与など3,124万円
輸出入海外の輸出(入)業者との契約による売上・原価の取引910万円

いちばん大きいのは役務提供で4,567万円。輸出入の5倍です。

輸出入が小さいのは、通関という形で第三者の記録が残るからだと考えられます。税関に申告し、通関業者が関わり、輸出入の実績は国の統計にも入ります。隠しにくい取引です。

一方、海外でのサービス提供や海外投資は、日本国内に書類が残らないことがあります。だからこそ申告から漏れやすく、見つかったときの金額も大きくなります。

5. どうやって見つかるのか|公表された調査事例

令和6事務年度の公表事例を見ると、把握の流れがよく分かります。

事例:国外不動産の賃料と、国外口座の利子

この方は譲渡所得だけを申告していました。

税務署が国外送金等調書を検討したところ、国外からの送金が多額に上っていました。さらにCRS情報から、国外金融機関の口座を持っていることが見込まれました。

調査に入ると、海外で働いていた頃にA国で買った居住用不動産があると説明がありました。現在の使用状況を確認すると、不動産管理会社を通じて貸し付けており、賃料を得ていたことが判明。さらにB国の口座では、投資信託の運用収益と預金利子を受け取っていました。

調査税目所得税(3年分)
申告漏れ所得金額約2億6千百万円
追徴税額(加算税込み)約1億1千6百万円

注目したいのは、この方は「隠そうとした」わけではなさそうだという点です。海外にいた頃に買った自宅を、帰国後に人に貸していた。海外の口座に置いたままの資金が、投資信託と利子を生んでいた。どちらも、日本の通帳には出てきません。

それでも3年分で約2億6千万円の申告漏れになりました。悪意がなくても金額が積み上がるのが、海外資産の怖いところです。

国税庁令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況 Ⅳ 調査事例

6. CRS情報は101か国から、年275万件届いている

税務署が海外資産を知る2つの入口海外日本口座・不動産国税庁CRS情報101か国・地域から年275万件の口座情報国外送金等調書1回100万円超の送金は金融機関が提出
このふたつを突き合わせて、申告内容と合わない人を選んでいます。

CRS(共通報告基準)は、非居住者の金融口座情報を税務当局どうしで定期的に交換する国際的な仕組みです。令和6事務年度の実績はこうです。

日本が受け取った、日本居住者のCRS情報(令和6事務年度)
件数約275万件(101か国・地域から)
個人口座約272万件/残高 約9.6兆円
法人口座約3万件/残高 約8.1兆円
前年比2,455,288件 → 2,745,374件(111.8%)

口座の名義人の氏名・住所・口座残高が含まれます。年に1回、まとめて届きます。

これに加えて、1回100万円を超える国外送金は、金融機関が「国外送金等調書」を税務署に提出しています。先ほどの事例も、この2つの突き合わせから始まっていました。

外国の税務当局から日本への照会も増えています。要請に基づく情報交換のうち、外国からの要請は202件から326件へ、6割増えました。

国税庁令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要(令和8年1月)

国税庁共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報

2027年からは暗号資産も自動交換されます

OECDが作ったCARF(暗号資産等報告枠組み)により、非居住者の暗号資産取引情報も税務当局間で自動的に交換されるようになります。

日本では2026年(令和8年)から制度が施行され、2027年(令和9年)に2026年分の情報交換が始まります。海外の取引所を使っている方は、いまの取引がそのまま交換の対象になる、ということです。

7. 申告から漏れやすい3つ

国外不動産の賃料現地の管理会社が手数料を引いて現地口座に入れるため、日本の通帳に出てきません。「送金していないから申告不要」と誤解されがちですが、居住者は全世界所得に課税されます
国外口座の利子・配当・分配金現地で源泉徴収されていると「もう払った」と思い込みやすい部分です。日本でも申告し、外国税額控除で二重課税を調整します
国外財産調書との不一致調書には書いてあるのに所得を申告していない、あるいは所得は申告しているのに調書を出していない。どちらも突き合わせで見つかります

8. 心当たりがあるなら、通知が来る前に

過去の申告に漏れがあった場合、いつ修正するかで負担が変わります。

修正申告のタイミング過少申告加算税
調査の通知を受ける前に自主的に修正かかりません
通知後、更正を予知する前に修正5%(重い部分は10%)
調査を受けてから修正10%(重い部分は15%)

「重い部分」は、当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分です。
このほか、納付が遅れた分に延滞税がかかります。令和8年は納期限の翌日から2か月まで年2.8%、それ以後は年9.1%です。

さかのぼれる期間にも注意が必要です。税務署が更正できるのは原則5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年です。何年も前のことだから大丈夫、とは言えません。

国税庁No.2026 確定申告を間違えたとき

国税庁No.9205 延滞税について

9. まとめ

  • 海外投資等を行っている富裕層への調査は、1件あたりの追徴税額が1,595万円。所得税の実地調査全体の5.3倍です。
  • 海外投資等を行っている個人全体でも、申告漏れ所得は922億円(前年比+38.9%)。件数はほぼ横ばいなので、1件あたりが大きくなっています。
  • 取引の中身では、役務提供が1件あたり4,567万円といちばん大きく、輸出入の5倍です。
  • CRS情報は101か国・地域から年275万件。国外送金等調書と突き合わせて調査先が選ばれています。
  • 2027年からは暗号資産も自動交換の対象になります。

海外に資産があるからといって、申告が漏れているとは限りません。ただ、「日本の通帳に出てこないお金」は見落としやすいのも事実です。海外の不動産や口座をお持ちで、申告の内容に不安があるという方は、無料相談でご一緒に確認します。

よくある質問

海外の口座は、日本の税務署に分かるのですか?

分かる前提で考えてください。CRSという国際的な仕組みにより、令和6事務年度は日本居住者の口座情報が101か国・地域から約275万件、国税庁に届いています。氏名・住所のほか口座残高も含まれます。加えて1回100万円を超える国外送金は、金融機関が国外送金等調書を税務署に提出しています。

海外の不動産の家賃を現地の口座で受け取り、日本に送金していません。申告は必要ですか?

必要です。日本の居住者は、国内で生じた所得か国外で生じた所得かを問わず、全世界の所得について日本で課税されます。日本へ送金したかどうかは関係ありません。現地でも課税されている場合は、外国税額控除で二重課税を調整します。

現地で源泉徴収された利子や配当も、日本で申告するのですか?

はい。日本の居住者であれば、国外で得た利子や配当も日本の課税対象です。現地で源泉徴収された税額は、外国税額控除の対象になります。「現地で引かれたから終わり」ではありませんのでご注意ください。

国税庁が言う「富裕層」には、いくらから該当しますか?

金額の基準は公表されていません。国税庁の資料では「有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に行っている個人など」と説明されています。とくに3つめは資産額より海外との関わりで拾われる書き方になっています。

過去の申告漏れに気づきました。いま修正すると加算税はどうなりますか?

調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。通知後で更正を予知する前なら5%(重い部分10%)、調査を受けてからは10%(重い部分15%)です。いずれの場合も、納付が遅れた分の延滞税はかかります。

何年前までさかのぼって指摘されますか?

税務署が更正できるのは原則として法定申告期限から5年です。偽りその他不正の行為により税を免れていた場合は7年になります。相続税の調査で過去の海外資産が出てくることもあり、年月が経っていても安心はできません。

暗号資産を海外の取引所で持っています。何か変わりますか?

変わります。CARFという国際的な枠組みにより、非居住者の暗号資産取引情報が税務当局間で自動交換されるようになります。日本では2026年から制度が施行され、2027年に2026年分の情報交換が始まる予定です。いま行っている取引が対象になります。

<注記>この記事は、国税庁が公表した資料に基づいて、海外資産に関する税務調査の傾向をご説明するものです。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の公表資料および法令等に基づいています。