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個人で海外の不動産を持っている場合の税金はどうなるの?
この記事の要点3行でわかる結論
- 日本に住んでいる個人は全世界所得課税の対象です。海外の不動産の家賃収入は不動産所得、売却益は譲渡所得として、日本でも毎年の確定申告が必要です。
- 売却時の税率は所有期間で大きく変わります。長期譲渡(5年超)は20.315%、短期譲渡(5年以下)は39.63%です。判定は「売った年の1月1日現在」で行うため、売る時期の見極めが結果を左右します。
- 中古の海外不動産を使った減価償却による節税は、令和3年分以後は使えません。現地で払った税金は外国税額控除で調整します。
海外の不動産に投資する個人の方が増えています。新興国の利回りの高さ、米国不動産の値崩れのしにくさ、円安局面での外貨建て資産の確保など、理由はさまざまです。一方で、税金の扱いを誤解したまま購入し、あとから申告漏れを指摘される例も見かけます。
この記事では、日本に住んでいる個人(居住者)が海外の不動産を持っている場合の税金を、買うとき・持っている間・売るとき・相続するときの順に整理します。令和3年分から適用されている国外中古建物の損益通算の制限や、令和9年からの復興特別所得税の見直しなど、近年の変更点も反映しています。
1. 前提:日本の居住者は海外の不動産にも日本の税金がかかる
日本の所得税は、居住者に対して「全世界所得課税」を採用しています。日本国内で稼いだ所得も、海外で稼いだ所得も、すべて合算して日本で申告するという考え方です。
したがって、海外にある不動産から家賃を受け取れば日本で不動産所得の申告が必要ですし、その不動産を売って利益が出れば日本で譲渡所得の申告が必要です。資産が国外にあることを理由に、日本の申告義務がなくなることはありません。
収入も経費も、日本の税法にしたがって計算します。外貨建ての家賃や現地で支払った経費は、日本円に換算したうえで所得を計算します。
2. 買ったときに日本の税金はかかるか
入り口では、日本の税金はほとんど発生しません。
- 不動産取得税は地方税です。国内にある不動産の取得に課される税金なので、海外の不動産には課されません。
- 登録免許税は日本の登記に対する税金です。海外の不動産の権利登録には課されません。
ただし、現地側では登記や権利移転にかかる費用、弁護士やエージェントへの報酬が発生します。日本の仲介手数料の感覚で見積もると、購入コストは大きく違うことがあります。これらの支出のうち、取得に要した費用は売却時の取得費に含められるものがあるため、契約書と領収書は必ず保管してください。
やました君
海外の不動産で税務上いちばん困るのは、買ったときの契約書や送金の記録が残っていないことです。取得費が証明できないと、売ったときに売却代金の5%しか取得費として差し引けません。保管は購入した瞬間から始まっていると考えてください。
3. 持っている間 ― 不動産所得として毎年申告する
海外の不動産を貸して家賃を受け取っている場合、日本では不動産所得になります。計算方法は国内の不動産と同じです。
総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額
必要経費には、現地の固定資産税に相当する税金、管理費、修繕費、損害保険料、建物の減価償却費などが入ります。減価償却の計算も日本の耐用年数の考え方で行います。
国税庁No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
不動産所得は総合課税です。給与所得や事業所得と合算して税率が決まるため、所得税は最大45%、これに住民税10%が加わります。申告していなかった場合は、本来の税金に加えて無申告加算税や延滞税が発生します。
4. 国外中古建物の節税は令和3年分から使えない
かつて「アメリカの中古不動産で節税」と呼ばれた手法がありました。築年数の経った海外の中古建物は、建物部分の価格の割合が高く、日本の税法の簡便法で耐用年数を計算すると4年程度まで短くなります。その結果、減価償却費が家賃収入を上回って不動産所得が赤字になり、その赤字を給与所得などと損益通算して税金を減らすという仕組みです。
これは令和2年度の税制改正で封じられました。令和3年以後の各年において、耐用年数を簡便法により計算した国外中古建物の不動産所得に損失が生じた場合、その損失のうち減価償却費に相当する部分の金額はなかったものとみなされます。この部分については、国内にある不動産から生じる不動産所得との内部通算も、不動産所得以外の所得との損益通算もできません。
国税庁No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
つまり、減価償却費で赤字をつくって他の所得の税金を減らす、という前提はすでに成り立ちません。海外不動産を検討するなら、賃料でどれだけ利益が残るかという本来の投資判断で見るべきです。
5. 二重課税は外国税額控除で調整する
不動産の所在する国では、その国の税法にしたがって家賃収入に課税されるのが通常です。日本でも全世界所得課税により同じ所得に課税されるため、そのままでは二重課税になります。
これを調整するのが外国税額控除です。現地で納めた税金を、日本の所得税額から直接差し引きます。控除できる金額には「日本の所得税額のうち国外所得に対応する部分」という限度額があり、引ききれない分は3年間繰り越せます。
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適用するには、現地の納税証明書や源泉徴収の明細を保管し、確定申告書に「外国税額控除に関する明細書」を添付します。この控除を使っていない申告は今でもよく見かけます。売却時に現地で課税された場合も同じです。
6. 売ったとき(出口)― 譲渡所得の計算
海外の不動産を売って利益が出た場合は、国内の不動産と同じく「土地建物等の譲渡所得」として、他の所得と分けて計算します(分離課税)。
収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額 = 課税譲渡所得金額
- 収入金額は売った金額です。
- 取得費は買った金額と取得に要した費用です。建物については、保有期間中に不動産所得の必要経費にした減価償却費を差し引いた残額になります。買った金額が分からない場合は、収入金額の5%しか取得費にできません。
- 譲渡費用は売却のために直接かかった費用です。現地のエージェント報酬や弁護士費用が該当します。
- 特別控除額は、居住用財産の3,000万円控除などの各特例によるものです。海外の不動産で使えるものは通常ありません。
分離課税であるため、賃貸で赤字が出ていても、その赤字を売却益から差し引くことはできません。逆に、同じ年に別の不動産を売って損失が出ていれば、その損失とは相殺できます。
7. 売ったときの税率は何パーセントか
譲渡所得の税率は、売った時点の所有期間によって2種類に分かれます。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 | 復興特別所得税込み |
|---|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 20% | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 39% | 39.63% |
この所有期間の判定には注意が必要です。売った日で数えるのではなく、売った年の1月1日現在で5年を超えているかどうかを見ます。次の例で確認してください。
2013年4月1日に購入し、2018年5月7日に売却した場合、実際の保有は5年を超えています。しかし判定日である2018年1月1日時点では4年9か月しか経っていないため、短期譲渡所得になります。同じ物件を2019年1月1日以後に売れば長期譲渡所得です。税率は39.63%と20.315%で、約2倍の差が出ます。
やました君
購入から5年を過ぎたから長期だろう、と思い込んで売却契約を結んでしまう例が実際にあります。売却の相談を受けたら、まず購入日と売却予定年の1月1日を並べて数えてください。数か月ずらすだけで税額が半分になることがあります。
8. 復興特別所得税は令和29年(2047年)まで
上の表の20.315%と39.63%には、復興特別所得税が含まれています。平成25年から令和29年(2047年)までの各年分について、基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
令和8年度の税制改正により、令和9年(2027年)1月1日以後は次のように変わります。
- 復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられます。
- 所得税額の1%を課す防衛特別所得税が新設されます。
- 合わせた上乗せ分は2.1%で変わらないため、長期20.315%・短期39.63%という税率そのものは変わりません。
9. 相続・贈与で引き継いだとき
日本に住所のある人が相続や遺贈で財産を取得した場合、取得したすべての財産が相続税の対象になります。海外にある不動産も含まれます。贈与税も同じ考え方です。国外にあることを理由に課税されないということはありません。
取得の時期は引き継がれる
相続や贈与で取得した不動産を後で売る場合、取得費と取得の時期は、亡くなった方や贈与した方のものをそのまま引き継ぎます。したがって、相続してすぐ売っても、被相続人が取得した時から数えて長期譲渡所得になることが多くなります。
国税庁No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
評価額と名義変更
「不動産にしておけば相続財産の評価が下がる」という説明を聞くことがありますが、国外の不動産には日本の路線価も固定資産税評価額も存在しません。評価の方法が国内の不動産と同じではないため、現金より必ず評価が下がるとは言えません。相続税対策として海外不動産を検討する場合は、評価方法を事前に確認してください。
名義変更の手続きも国内より重くなります。現地の専門家や弁護士に依頼することになり、費用も時間もかかります。共有名義にする場合の扱いも国によって異なるため、購入前に確認しておくことをおすすめします。
10. 海外の不動産は税務署に把握されるのか
「海外のことだから分からないだろう」という前提は成り立ちません。個人の国外資産を把握する仕組みが複数動いています。
- 国外送金等調書。100万円を超える国外への送金・国外からの受領があると、金融機関から税務署へ調書が提出されます。令和6事務年度の提出枚数は923万枚です。購入代金の送金も、売却代金の受領も、賃料の受領もここに乗ります。
- 国外財産調書。12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに提出する義務があります。海外の不動産も国外財産です。
- 共通報告基準(CRS)。国内の金融機関は非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、租税条約等の情報交換規定に基づいて各国の税務当局と自動的に交換されます。
国税庁CRSコーナー
国外財産調書を出していれば、後日その財産に関する申告漏れが見つかっても加算税が5%軽減されます。逆に提出しなかった場合や記載がなかった場合は5%加重されます。正当な理由なく期限内に提出しなかったときや虚偽の記載をしたときは、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。
11. まとめ
- 日本の居住者は全世界所得課税。海外不動産の家賃は不動産所得、売却益は譲渡所得として日本でも申告する。
- 国外中古建物の簡便法による減価償却費で赤字をつくり損益通算する手法は、令和3年分以後は使えない。
- 売却の税率は長期20.315%・短期39.63%。判定は「売った年の1月1日現在」で行う。
- 現地で納めた税金は外国税額控除で調整する。明細書の添付を忘れない。
- 相続・贈与でも日本の相続税・贈与税がかかる。取得の時期は引き継がれる。
- 国外送金等調書・国外財産調書・CRSにより、国外の資産や資金移動は把握される前提で考える。
海外の金融資産や、外国籍の方の課税については別の記事にまとめています。
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よくある質問
海外の不動産の家賃収入は、日本で申告が必要ですか?
必要です。日本の居住者は全世界所得課税のため、海外にある不動産の家賃も日本で不動産所得として毎年申告します。収入も経費も日本の税法にしたがって計算し、外貨建てのものは円に換算します。減価償却も日本の耐用年数の考え方で行います。
海外の不動産を買ったときに、日本の税金はかかりますか?
ほとんどかかりません。不動産取得税は国内にある不動産の取得に課される地方税で、登録免許税は日本の登記に対する税金のため、いずれも海外の不動産には課されません。ただし現地では登記費用や弁護士・エージェントへの報酬が発生します。
海外の中古不動産を使った減価償却の節税はまだ使えますか?
使えません。令和3年分以後は、簡便法により耐用年数を計算した国外中古建物の不動産所得に損失が生じた場合、その損失のうち減価償却費に相当する部分はなかったものとみなされます。給与所得などとの損益通算も、国内不動産の所得との内部通算もできません。
海外の不動産を売ったときの税率は何%ですか?
所有期間が5年を超える長期譲渡は20.315%、5年以下の短期譲渡は39.63%です。判定は売った日ではなく、売った年の1月1日現在で5年を超えているかどうかで行います。売る年を1年ずらすだけで税率が約2倍変わることがあります。
海外にある不動産にも日本の相続税はかかりますか?
かかります。日本に住所のある人が相続や遺贈で取得した財産は、国外にあるものも含めてすべて相続税の対象です。贈与税も同じ考え方です。ただし国外の不動産には日本の路線価も固定資産税評価額もないため、評価方法を事前に確認してください。
<注記>この記事は、海外の不動産をお持ちの個人の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。計算例は考え方を示すために簡略化しており、細部の要件は省略している箇所があります。現地国の税制や租税条約の適用は国によって異なります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。





