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特定金属くず特例とは?令和8年9月から銅くずの仕入税額控除はこう変わる

この記事の要点3行でわかる結論

  • 令和8年9月1日以後、銅を主とする「特定金属くず」は古物商特例と再生資源等特例の対象から外れ、金属盗対策法の届出をした事業者だけが帳簿の保存のみで仕入税額控除を受けられます。
  • 届出をしていない事業者は、免税事業者や個人から買い取った銅くずについて帳簿だけでは控除できず、経過措置の7割控除にとどまります。
  • あわせて経過措置に控除限度額が入り、一の相手方からの課税仕入れが年1億円を超える部分は控除できなくなります(令和8年10月1日以後に開始する課税期間から)。

令和8年度税制改正で、消費税に「特定金属くず特例」が創設されました。名称だけを見ると新しい優遇措置ができたように読めますが、実際には、これまで広く使えていた帳簿だけの保存による仕入税額控除を、届出をした事業者に絞り込む改正です。

影響が最も大きいのは、国内で銅くずを買い集めて海外へ輸出している会社です。この業種は消費税の還付を受ける立場にあり、還付額は仕入税額控除がどれだけ取れるかで決まるためです。この記事では、何が変わったのか、いつから適用されるのか、輸出をしている会社は何を確認すべきかを順に説明します。

1. 特定金属くず特例とは何か。令和8年度改正で何が変わったのか

特定金属くず特例とは、金属盗対策法の届出をした事業者が、適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産として買い受ける特定金属くずについて、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める制度のことです。

国税庁のリーフレットには、次のように書かれています。

盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(金属盗対策法)に規定する特定金属くずについて、古物商特例や再生資源等特例の対象から除いた上で、同法上の特定金属くず買受業の届出を行っている事業者が適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける特定金属くずについて、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除を認める特例の対象に加えることとされました。

重要なのは前半の「古物商特例や再生資源等特例の対象から除いた上で」という部分です。これまで銅くずは、古物商特例または再生資源等特例に乗って帳簿だけの保存で控除できていました。その入口が閉じられ、代わりに届出をした事業者だけが使える新しい入口が用意された、という構造です。

 令和8年8月31日までの仕入れ令和8年9月1日以後の仕入れ
根拠となる特例古物商特例/再生資源等特例特定金属くず特例(新設)
使える事業者古物営業や再生資源卸売業等を営んでいれば使える金属盗対策法の届出をしている事業者に限られる
効果免税事業者・個人からの仕入れも帳簿の保存だけで控除できる同じ(ただし届出をした事業者のみ)
届出をしていない場合—帳簿のみでは控除できない。経過措置の7割控除にとどまる

国税庁令和8年度税制改正特集(インボイス制度)

2. 特定金属くずとは、どの金属くずを指すのか

特定金属くずとは、金属盗対策法に規定する特定金属によって構成されている金属くずのことです。現時点で特定金属に該当するのは銅のみで、政令で追加できる建て付けになっています。

代表的なものは次のとおりです。

  • 切断された銅線、電力ケーブル
  • マンホールのふた、グレーチング
  • 給湯器、使用できない状態になったエアコンの室外機
  • 切断された銅製の物品(銅板屋根、橋銘板など)

判断の軸は「本来の用途で使える状態かどうか」です。中古品として再利用できるものは古物、使えない状態のものは特定金属くず、という切り分けになります。令和7年に太陽光発電設備からの金属ケーブル窃盗をはじめとする金属盗が急増したことが、金属盗対策法が作られた背景です。

3. いつから適用されるのか。なぜ令和8年9月1日なのか

令和8年9月1日以後に行う課税仕入れから適用されます。この日付は、金属盗対策法の届出の猶予期間が終わる翌日にあたります。

警察への届出が終わった翌日から、税の特例が始まる届出の猶予期間(3か月)金属盗対策法 全面施行令和8年6月1日既存事業者の届出期限令和8年8月31日特定金属くず特例 適用開始令和8年9月1日以後の仕入れ控除限度額1億円令和8年10月1日以後開始の課税期間
8月31日までに届出が済んでいないと、9月1日以後の仕入れで特例を使えません

金属盗対策法は令和8年6月1日に全面施行され、同日時点ですでに特定金属くず買受業を営んでいる事業者は、令和8年8月31日までに公安委員会へ届け出なければなりません。この猶予期間が明けた9月1日から、税の特例が動き出す設計です。

逆にいえば、8月31日までに届出が済んでいない事業者は、9月1日以後の仕入れについて特例を使えません。届出は営業所ごとに行い、手数料はかかりません。無届で営業した場合は6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という罰則があります。

4. 帳簿には何を書けばよいか

通常の記載事項に加えて、次の2つを記載します。

  1. 特定金属くず特例の対象となる旨
  2. 課税仕入れの相手方の住所または所在地

ただし、金属盗対策法により本人特定事項の確認が不要とされる取引については、2の住所または所在地の記載は不要です。本人確認が不要とされるのは、次の場合です。

  • 買受けの相手方との2回目以降の取引で、代金の支払いをその相手方の口座への振込みにより行う場合
  • 特定金属くず買受業を営む者が、特定金属くずを自ら輸入する場合

現金払いを口座振込に切り替えると、警察側の本人確認と税務側の帳簿記載の負担が同時に軽くなります。会計ソフトの側では、摘要欄のひな型に「特定金属くず特例」を登録し、仕入先マスタに住所を入れておくのが確実です。

5. 銅くずを輸出している会社には、何が起きるのか

還付額が減る可能性があります。金属スクラップの輸出は、消費税の観点では典型的な還付事業者だからです。

銅スクラップの輸出は、もともと「還付」の構造輸出売上でもらった消費税0円国内で銅くずを買うとき払った消費税▲1,000万円=納める消費税 ▲1,000万円 → 還付
還付額は仕入税額控除がどれだけ取れるかで決まります

輸出売上には消費税がかかりません(輸出免税)。一方、国内で銅くずを買い集めるときには消費税を払っています。預かった消費税より払った消費税のほうが多くなるため、差額が還付されます。つまりこの業種の資金繰りは、仕入税額控除がどれだけ取れるかに直結しています。

仕入先が適格請求書発行事業者でないことが多い

銅くずの供給元は、解体業者、電気工事業者、個人の回収業者などです。適格請求書を発行できない相手が少なくないため、これまでは古物商特例や再生資源等特例に乗って帳簿だけの保存で控除してきた会社が多いはずです。その足場が、令和8年9月1日で入れ替わります。

  • 届出をしている場合 — 特定金属くず特例により、これまでどおり帳簿の保存だけで全額を控除できます。
  • 届出をしていない場合 — 帳簿のみでの控除はできません。適格請求書がなければ、経過措置による7割控除にとどまります。

仕入の大半が免税事業者からで、その3割が控除できなくなれば、還付額は目に見えて減ります。届出という手続きひとつが、そのまま資金繰りの差になります。

経過措置に入った「1億円の壁」

見落とされがちですが、同じ令和8年度改正で、経過措置に控除限度額が設けられました。一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額が、その年またはその事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、その超えた部分については経過措置を適用できません。令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

適用のハードルが10億円から1億円へ一気に下がりました。ひとつの免税事業者から年間1億円を超えて仕入れている状態は、金属スクラップ業界では珍しい規模ではありません。届出がないまま経過措置に頼ると、1億円を超えた部分は控除がゼロになります。

控除割合そのものも、適用期限が2年延長されたうえで見直されています。

期間控除できる割合
令和8年10月〜令和10年9月70%
令和10年10月〜令和12年9月50%
令和12年10月〜令和13年9月30%
令和13年10月以後0%

やました君

「特例が創設された」という見出しだけを見て、有利な改正だと受け取ってしまうと逆になります。届出をしているかどうかで、同じ取引の控除額が変わります。銅くずを扱う会社は、まず届出の有無から確認してください。

6. 海外から輸入した銅くずはどう扱うのか

輸入分には、この特例は関係しません。海外から自ら輸入する場合は国内の課税仕入れではなく、保税地域からの引取りにあたります。輸入時に納付した消費税を、輸入許可通知書等の保存によって控除します。

金属盗対策法の側でも、自ら輸入する場合は本人確認が不要とされています。国内での買取分と輸入分は、帳簿と証憑の保存ルートがまったく別になるため、経理上も明確に分けて管理してください。

なお、今回の改正は仕入側の話であり、輸出側の要件が緩くなったわけではありません。輸出免税の適用には、輸出許可通知書などの証明書類の保存が引き続き必要です。還付申告はもともと調査の対象になりやすく、国税当局は消費税の不正還付を重点課題に位置づけています。仕入側の要件が具体化された分、確認は細かくなると考えておくべきです。

国税庁No.6551 適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要

7. まとめ

  • 特定金属くず特例は、金属盗対策法の届出をした事業者だけが使える。届出がなければ、免税事業者から買った銅くずは帳簿だけでは控除できない。
  • 対象は銅を主とする金属くず。切断された銅線、マンホールのふた、使えない室外機などが該当する。
  • 適用は令和8年9月1日以後の課税仕入れから。既存事業者の届出期限は令和8年8月31日だった。
  • 帳簿には「特定金属くず特例の対象となる旨」と「相手方の住所または所在地」を記載する。本人確認が不要な取引は住所の記載も不要。
  • 経過措置には一の相手方につき年1億円の控除限度額が入った(令和8年10月1日以後開始の課税期間)。届出がない輸出業者ほど影響が大きい。

売上側も同時に変わります。令和8年10月1日以後、輸出の代金を現金等で受け取る取引は、仕向国の輸入許可書に相当する書類がなければ輸出免税を適用できません。銅くずの輸出は仕入側と売上側の両方で締められるため、あわせてご確認ください。

届出そのものの手続きは、次の記事で福岡県を例にまとめています。

銅スクラップの輸出で消費税の還付を受けている方へ

当事務所では、輸出免税の証明書類と仕入側の帳簿要件を両面から点検し、還付が通る体制になっているかをご確認しています。仕入先に免税事業者が多い場合は、令和8年9月1日をまたぐ前にご相談ください。

よくある質問

特定金属くず特例は、誰でも使えますか?

使えません。金属盗対策法に基づく特定金属くず買受業の届出をしている事業者に限られます。届出をしていない場合、適格請求書発行事業者でない相手から買い取った特定金属くずについて、帳簿の保存だけでは仕入税額控除を受けられません。

特定金属くずとは、具体的にどのようなものですか?

金属盗対策法に規定する特定金属により構成されている金属くずで、現時点で特定金属に該当するのは銅のみです。切断された銅線や電力ケーブル、マンホールのふた、グレーチング、給湯器、使用できない状態のエアコン室外機などが該当します。

これまで再生資源等特例で帳簿だけ保存していました。9月以後も同じ処理でよいですか?

同じではありません。令和8年9月1日以後は、特定金属くずが古物商特例と再生資源等特例の対象から除かれます。届出をしている事業者は新しい特定金属くず特例に沿って帳簿の記載事項を追加し、届出をしていない事業者は帳簿のみの保存では控除できなくなります。

帳簿には何を書けばよいですか?

通常の記載事項に加えて、特定金属くず特例の対象となる旨と、課税仕入れの相手方の住所または所在地を記載します。ただし、金属盗対策法により本人特定事項の確認が不要とされる取引については、住所または所在地の記載は不要です。

海外から輸入した銅くずにも、この特例は関係しますか?

関係しません。輸入は国内の課税仕入れではなく保税地域からの引取りにあたり、輸入時に納付した消費税を輸入許可通知書等の保存によって控除します。適格請求書も特定金属くず特例も要件になりません。国内での買取分と輸入分は、帳簿と証憑の管理を分けてください。

<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。