国際税務情報
TAX CONTENT
輸出売上の消費税還付は、免税事業者ではできない!
この記事の要点3行でわかる結論
- 免税事業者は消費税を納めない代わりに、輸出のために支払った消費税の還付も受けられません。
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば、自ら課税事業者になれます。効くのは原則として翌事業年度からで、設立1期目だけは期末までに出せば設立日にさかのぼります。
- 一度選ぶと2年間はやめられず、高額な資産を買うと3年に延びます。インボイス登録で課税事業者になった場合でも、2割特例で申告すると還付は受けられません。
輸出売上がある会社は、国内で支払った消費税の還付を受けられる可能性があります。しかし、該当すると還付を受けられなくなる条件がいくつかあり、その代表が「免税事業者であること」です。この記事では、免税事業者がなぜ還付を受けられないのか、還付を受けるにはどうすればよいのか、そして選択したあとの注意点を説明します。
還付の仕組みそのものは、先に次の記事をお読みいただくと理解が早くなります。
あわせて読みたい
1. 免税事業者とは何か。なぜ還付を受けられないのか
免税事業者とは、消費税の納税義務が免除されている事業者のことです。原則として、2年前の事業年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者になります。創業したばかりの会社や、小規模な事業がこれに当たります。
免税かどうかを判定する基準は、基準期間のほかにもあります。前年の上半期(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、資本金1,000万円以上で設立した法人は、基準期間の売上にかかわらず課税事業者です。
免税事業者は消費税の申告をしません。申告をしないということは、支払った消費税を差し引いてマイナス分を返してもらう、という手続き自体が存在しないということです。消費税を納めていない事業者に、還付を受ける権利もありません。輸出売上があっても、免税事業者のままでは国内で支払った消費税はそのまま費用になります。
2. 課税事業者になるには、いつまでに何を出せばよいか
売上が1,000万円以下でも、自分から手を挙げて課税事業者になることができます。税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出するだけです。課税事業者になれば消費税の申告義務が生じ、同時に還付を受ける権利も得られます。
ここで最も注意が必要なのは、いつから課税事業者になるかです。届出書は、提出した事業年度の翌事業年度から効力を持ちます。出したその期にはさかのぼりません。
3月決算の会社が2026年1月に届出書を提出した場合、課税事業者になるのは2026年4月1日からです。2025年4月から2026年3月までの期に輸出売上があっても、その期の還付は受けられません。輸出を始める前の事業年度のうちに提出しておく必要があります。
ただし、設立1期目の会社には特例があります。設立してから事業を始める前に届出書を出すことは現実的ではないため、設立事業年度の末日までに提出すれば、設立日にさかのぼって課税事業者として扱われます。
2026年8月1日に設立した3月決算の会社であれば、2027年3月31日までに届出書を出せば、1期目の輸出売上から還付の対象になります。設立時から輸出を予定している会社は、設立手続きと同時に検討しておくべき届出です。
あわせて読みたい
3. 課税事業者を選ぶと、何年間やめられないのか
課税事業者を選択すると、権利と同時に義務が生じます。輸出が減って国内売上が増えれば、納税が発生する年も出てきます。そして、都合が悪くなったからといってすぐには免税に戻れません。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 2年縛り | 課税事業者を選択した課税期間の初日から2年間は、選択をやめる届出(不適用届出書)を出せない |
| 調整対象固定資産の3年縛り | 2年縛りの期間中に、税抜100万円以上の固定資産を本則課税で取得すると、その取得した課税期間の初日から3年間は免税事業者に戻れず、簡易課税も選べない |
| 高額特定資産の3年縛り | 一取引単位で税抜1,000万円以上の棚卸資産や固定資産を本則課税で取得した場合も、同様に3年間は免税・簡易課税に戻れない |
| 金・白金地金の3年縛り | 2024年4月以降、金・白金の地金を年間で税抜200万円以上仕入れた場合も、3年間は免税・簡易課税に戻れない |
国税庁No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
還付で得られる金額と、将来の納税負担や事務コストを比べて判断する必要があります。少なくとも2年分、設備投資の予定があれば3年分の消費税を試算してから届出書を出してください。
4. インボイス登録をすれば還付を受けられるのか
2023年10月にインボイス制度が始まってから、「適格請求書発行事業者の登録」を通じて課税事業者になる会社が増えました。この登録と輸出還付の関係は、次のように整理できます。
- 適格請求書発行事業者の登録をすると、課税事業者になります。還付を受ける立場にはなります。
- ただし、登録は還付の要件ではありません。輸出免税売上しかない事業者には、そもそも適格請求書を交付する義務がありません。
- 免税事業者から登録した小規模事業者が使える「2割特例」は、売上にかかる消費税の2割を納める簡便な方式です。支払った消費税を実額で差し引く計算をしないため、2割特例で申告すると還付は生じません。輸出還付を受けるなら、本則課税で申告する必要があります。
- 仕入側では、国内の仕入先から受け取った適格請求書の保存が控除の要件です。
やました君
「インボイス登録をしたから還付も受けられる」と考えて、2割特例のまま申告してしまっている例を見かけます。輸出売上がある年は、本則課税で計算したほうが有利かどうかを必ず確かめてください。
国税庁適格請求書等保存方式に関するQ&A(問23 輸出免税取引と交付義務)
5. どのような会社・個人が対象になるか
典型的なのは、eBayやAmazon.comなどの海外プラットフォームで販売する越境EC、個人輸出、そして設立直後から輸出取引を始める会社です。売上規模が小さいうちは免税事業者に該当することが多く、届出を出さないまま何年も経過している例が目立ちます。
国内の仕入や経費にかかる消費税10%は、年間で見ればまとまった金額になります。輸出の予定がある段階で、課税事業者を選択するかどうかを試算しておくことをおすすめします。
なお、2026年10月1日以後は、代金を現金等で受け取った輸出取引について、輸入国側の輸入許可書等の保存が輸出免税の要件に加わります。小口の個人輸出は現金決済になりやすいため、決済方法と書類の保存方法を先に設計しておく必要があります。
6. まとめ
- 免税事業者は消費税の申告をしないため、輸出のために支払った消費税の還付も受けられない。
- 「消費税課税事業者選択届出書」を出せば課税事業者になれる。効くのは翌事業年度から。設立1期目だけは期末までに出せば設立日にさかのぼる。
- 選択すると2年間はやめられず、100万円以上の固定資産や1,000万円以上の資産を買うと3年に延びる。試算してから届け出る。
- インボイス登録で課税事業者になっても、2割特例で申告すると還付はない。輸出がある年は本則課税で計算する。
還付を受けられないもうひとつの代表例が「簡易課税」です。あわせてご確認ください。
課税事業者を選択すべきか迷っている場合
当事務所では、還付見込額と将来の納税負担を並べて試算したうえで、届出の要否とタイミングをご提案しています。消費税還付のご相談はこちら
よくある質問
免税事業者でも輸出売上の消費税還付は受けられますか?
いいえ。免税事業者は消費税の申告をしないため、支払った消費税を差し引いてマイナス分を返してもらう手続き自体がありません。還付を受けるには「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、自ら課税事業者になる必要があります。
免税事業者になるのは売上がいくら以下のときですか?
原則として、2年前の事業年度(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下のときです。ただし、前年の上半期(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、資本金1,000万円以上で設立した法人は、基準期間の売上にかかわらず課税事業者になります。
消費税課税事業者選択届出書はいつまでに出せばよいですか?
課税事業者になりたい事業年度が始まる日の前日までです。提出した事業年度にはさかのぼらないため、輸出を始める前の期に出しておく必要があります。設立1期目だけは例外で、その事業年度の末日までに提出すれば設立日にさかのぼって課税事業者になります。
課税事業者を選ぶと、何年間やめられませんか?
2年間です。課税事業者を選択した課税期間の初日から2年間は、不適用届出書を提出できません。この期間中に税抜100万円以上の調整対象固定資産や、一取引単位で税抜1,000万円以上の高額特定資産を本則課税で取得すると、縛りは3年に延びます。
インボイス登録をすれば消費税の還付を受けられますか?
登録すれば課税事業者になりますが、それだけでは還付を受けられません。登録は還付の要件ではなく、要件はあくまで課税事業者であることです。特に、免税事業者から登録した小規模事業者が使う2割特例では還付が生じないため、輸出売上がある期は本則課税で申告してください。
動画でも解説しています海外ビジネスの税金チャンネル
【輸出業1年目】消費税還付の始め方。免税事業者でもお金が戻る仕組みを解説海外ビジネスの税金チャンネル
<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。





