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輸出売上の消費税還付は簡易課税では受けられない!
この記事の要点3行でわかる結論
- 簡易課税は「預かった消費税 × みなし仕入率」を支払った消費税とみなす計算方式です。輸出売上は預かる消費税がゼロのため控除もゼロになり、還付は生じません。
- 簡易課税をやめるには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、本則課税に戻したい事業年度が始まる前日までに提出します。選択してから2年間はやめられません。
- 事業年度の途中で輸出が増えたときは、事業年度を区切って本則課税に切り替える方法や、輸出専門の別会社を設ける方法があります。届出の期限は1日でも遅れると1年ずれます。
輸出売上がある会社が消費税の還付を受けられない理由は、大きく2つあります。ひとつは免税事業者であること、もうひとつが「簡易課税」を選択していることです。この記事では、簡易課税ではなぜ還付が生じないのかを計算例で確認したうえで、簡易課税をやめる手続きと期限、そして期の途中で輸出が増えた場合の対策を説明します。
還付の仕組みそのものと、免税事業者の場合については、それぞれ次の記事をご覧ください。
1. 簡易課税とは何か。誰が選べるのか
簡易課税とは、2年前の事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる、消費税の簡便な計算方法です。支払った消費税を実額で集計せず、預かった消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた金額を、支払った消費税とみなして差し引きます。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 卸売業 | 90% |
| 第2種事業 | 小売業など | 80% |
| 第3種事業 | 製造業・建設業など | 70% |
| 第4種事業 | 飲食店業など、他の区分に入らない事業 | 60% |
| 第5種事業 | 運輸通信業・金融業・保険業・サービス業 | 50% |
| 第6種事業 | 不動産業 | 40% |
選択するには「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けたい事業年度が始まる前日までに税務署へ提出します。一度選択すると、原則として2年間はやめられません。
やました君
判定に使うのは「今期」ではなく「2年前」の売上です。2年前は5,000万円以下だったが今は3億円、という小売業や物販業は珍しくありません。今の規模が大きいから簡易課税は関係ない、とは言い切れないので、届出の履歴を一度確認してください。
2. なぜ簡易課税では還付が生じないのか
消費税の還付は、「預かった消費税 − 支払った消費税」がマイナスになったときに生じます。輸出売上は消費税法7条の輸出免税により預かる消費税がゼロなので、本則課税では国内で支払った消費税がそのまま還付になります。
ところが簡易課税では、支払った消費税を「預かった消費税 × みなし仕入率」で計算します。控除できる金額は預かった消費税を超えることがなく、計算結果がマイナスになる余地がありません。輸出売上しかない会社なら、預かった消費税がゼロなので控除もゼロ、納税額もゼロで終わります。
同じ会社を本則課税と簡易課税で計算して比べてみます。小売業(第2種・みなし仕入率80%)で、税抜の国内売上1,000万円、輸出売上3,000万円、国内仕入・経費2,500万円とします。
本則課税なら150万円の還付、簡易課税なら20万円の納税です。差額は170万円になります。輸出比率の高い会社にとって、簡易課税を選んだままにしておくことがどれだけ不利かが分かります。
なお、2023年10月のインボイス制度開始にあわせて設けられた「2割特例」も、預かった消費税の8割を控除して残り2割を納める方式です。簡易課税を選択している事業者も申告時に2割特例を選べますが、仕組みは簡易課税と同じで、還付は生じません。2割特例を使える期間は、2026年9月30日を含む課税期間までです。
国税庁2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
3. やめる前に、何を試算しておくべきか
簡易課税をやめる前に、自社の数字で還付になるかどうかを試算してください。輸出売上があっても、売上全体に占める割合が小さければ、本則課税でも納税になります。その場合は簡易課税のほうが有利なこともあります。
試算は、少なくとも2年分は行ってください。簡易課税をやめると、次に説明するとおり、本則課税を選び直したあとも簡単には戻れないためです。輸出の見込み、国内売上の見込み、設備投資の予定を並べて、2年分の消費税を本則・簡易の両方で計算します。
4. 簡易課税をやめるには、いつまでに何を出すのか
本則課税に戻すには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を税務署に提出します。期限は、本則課税を適用したい事業年度が始まる日の前日です。3月決算の会社が2027年4月1日から本則課税にしたいなら、2027年3月31日までに提出します。
ただし、簡易課税には2年縛りがあります。不適用届出書を提出できるのは、簡易課税の効力が生じた事業年度の初日から2年を経過する日の属する事業年度に入ってからです。たとえば2025年4月1日から簡易課税を適用した3月決算の会社なら、2年を経過する日は2027年3月31日で、その日が属する2026年度(2026年4月〜2027年3月)中に提出でき、2027年4月1日から本則課税に戻れます。簡易課税は最低でも2年間続くということです。
状況別に、取るべき対策を整理します。
① すでに輸出売上があり、2年縛りが明けている
今期の末日までに不適用届出書を提出し、来期から本則課税に戻します。今期の還付はあきらめるしかありませんが、来期以降の還付は確保できます。いつから簡易課税を適用しているかを、届出書の控えで確認してください。
② 来期以降に輸出売上が増える見込み
今期中に2年分の試算を行い、本則課税が有利なら、今期の末日までに不適用届出書を提出します。3月決算なら3月31日が期限です。期限を1日でも過ぎると、本則課税に戻るのが1年遅れます。
やました君
消費税の届出は後出しができません。輸出を始める話が出た時点で、簡易課税の届出状況と2年縛りの明ける時期を確認しておくのが、還付を取りこぼさない一番の近道です。
③ 事業年度の途中で急に輸出売上が増えた
売上の増減は事業年度に合わせて起きてくれません。期の途中で輸出が急増した場合は、その時点で事業年度を区切り、新しい事業年度から本則課税にする方法があります。2年縛りが明けていることが前提です。
3月決算の会社で、2026年7月初めに「8月から輸出売上が大幅に増える」と分かったとします。この場合、7月31日でいったん決算を締め、8月1日から新しい事業年度を始めます。
手続きは次の3つです。
- 株主総会を開いて、定款の事業年度を変更する。事業年度は登記事項ではないため、登記は不要です。
- 税務署に「異動届出書」を提出する。都道府県と市町村にも同様の届出を出します。
- 7月31日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する。新しい事業年度の初日の前日が期限です。これを忘れると、事業年度を変えた意味がなくなります。
国税庁法人の異動届出書
事業年度を変えずに、消費税の課税期間だけを3か月または1か月に短縮する方法もあります。ただし短縮も2年間はやめられず、申告の回数が増えます。詳しくは次の記事で説明しています。
④ 輸出専門の別会社を設立する
2年縛りが明けていない場合は、今の会社とは別に輸出専門の会社を設立する選択肢があります。新しい会社は設立1期目に「消費税課税事業者選択届出書」を出せば、1期目から本則課税で還付を受けられます。
ただし、設立費用、経理や申告の手間、2社に分かれることによる管理コストがかかります。これらが還付額を上回るなら意味がありません。試算したうえで判断してください。
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5. どんなときに簡易課税へ戻れなくなるのか
本則課税で還付を受ける会社は、一定の資産を買うと、その後3年間は簡易課税を選び直せなくなります。還付の年に大きな仕入や投資を計画している場合は、あらかじめ知っておいてください。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 高額特定資産の3年縛り | 一取引単位で税抜1,000万円以上の棚卸資産や固定資産を本則課税で取得すると、その事業年度の翌年度から一定期間、免税事業者になれず、簡易課税制度選択届出書も提出できない |
| 調整対象固定資産の3年縛り | 課税事業者を選択した会社などが、税抜100万円以上の固定資産を本則課税で取得した場合も、同様の制限がある |
| 金・白金地金の3年縛り | 2024年4月以降、金・白金の地金を年間で税抜200万円以上仕入れた場合も、3年間は免税・簡易課税に戻れない |
国税庁No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
また、本則課税で輸出免税を受けるには、輸出許可書などの証明書類の保存が要件です。2026年10月1日以後は、代金を現金等で受け取った輸出取引について、輸入国側の輸入許可書等の保存も加わります。簡易課税から本則課税に切り替えると、この書類管理が還付の生命線になります。
6. まとめ
- 簡易課税は「預かった消費税 × みなし仕入率」で控除額を決めるため、計算がマイナスにならず、輸出売上の還付は生じない。2割特例も同じ。
- やめるには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、本則課税にしたい事業年度の初日の前日までに提出する。2年縛りが明けてから。
- 期の途中で輸出が増えたら、事業年度を区切るか、課税期間を短縮する。2年縛り中なら別会社も選択肢。
- 本則課税に戻したあと、1,000万円以上の資産や200万円以上の地金を買うと、3年間は簡易課税に戻れない。
- どの対策も、2年分の試算をしてから届出を出す。
簡易課税のままで輸出を始めてしまった、または切り替えの時期に迷っている場合
当事務所では、本則・簡易それぞれの試算と届出のスケジュール設計を含めた「消費税還付コンサルティング」を行っています。消費税還付のご相談はこちら
よくある質問
簡易課税でも輸出売上の消費税還付は受けられますか?
いいえ。簡易課税は「預かった消費税 × みなし仕入率」を支払った消費税とみなして差し引く方式です。控除額が預かった消費税を超えることはなく、計算結果がマイナスになる余地がありません。インボイス制度の2割特例も同じ仕組みで、還付は生じません。
簡易課税を選べるのは売上がいくらまでですか?
2年前の事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。判定に使うのは今期の売上ではなく2年前の売上なので、現在の規模が大きくても簡易課税が続いていることがあります。届出書の控えで適用の有無を確認してください。
簡易課税をやめる届出はいつまでに出せばよいですか?
本則課税を適用したい事業年度が始まる日の前日までです。3月決算の会社が2027年4月1日から本則課税にしたいなら、2027年3月31日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。1日でも遅れると本則課税に戻るのが1年遅れます。
簡易課税は何年間やめられませんか?
最低2年間です。不適用届出書を提出できるのは、簡易課税の効力が生じた事業年度の初日から2年を経過する日の属する事業年度に入ってからです。2025年4月1日から適用した3月決算の会社なら、2026年4月〜2027年3月の期に提出でき、2027年4月1日から本則課税に戻れます。
事業年度の途中で輸出売上が急に増えたらどうすればよいですか?
その時点で事業年度を区切り、新しい事業年度から本則課税にする方法があります。2年縛りが明けていることが前提で、株主総会での定款変更、税務署への異動届出書、新しい事業年度の初日の前日までの不適用届出書の3つが必要です。2年縛り中なら、輸出専門の別会社を設立する選択肢もあります。
<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。





