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海外展開を支援する公的な制度と、補助金を受け取ったときの税務

この記事の要点3行でわかる結論

  • 海外展開を支える公的な仕組みは、情報と相談・お金の支援・リスクへの備えの3つに分かれます。補助金だけを探すより、自社が今どの段階にいるかを決めてから制度を当たるほうが早く進みます。
  • 補助金は税金の対象です。法令の規定等に基づいて経費の補塡として交付を受ける給付金等は、その原因となった事実があった事業年度に、金額が確定していなくても見積もって益金に算入します(法人税基本通達2-1-42)。
  • 固定資産の取得や改良に充てた国庫補助金等は、返還を要しないことが確定していれば圧縮記帳ができます(法人税法42条)。ただし課税がなくなるのではなく、翌期以降の減価償却費が減る形で繰り延べられるだけです。

国内の人口が減っていく以上、中小企業でも海外に販路を求める場面は増えます。ただ、海外展開は初期費用がかさむ割に、成果が出るまでに時間がかかります。市場調査、外国語サイトの制作、展示会への出展、現地の法務・税務の確認。どれも先にお金が出ていきます。

この負担を軽くするために、国や公的機関がさまざまな支援制度を用意しています。この記事では、どんな種類の支援があるのかという全体像と、支援を受け取ったときの税務を整理します。

個別の補助金の名称や金額、公募期間はあえて書きません。年度ごとに内容が変わり、すぐ古くなるためです。制度の探し方と、受け取ったあとの経理・申告の考え方を押さえていただくほうが、長く役に立ちます。

1. 海外展開の公的支援には、どんな種類があるか

海外展開を支える公的な仕組みは、次の3つに整理できます。

支援制度は大きく3つに分かれる海外展開を支える公的な仕組み情報と相談市場調査・専門家相談・商談機会お金の支援補助金・助成金・融資・信用保証リスクへの備え貿易保険などの制度
「補助金はないか」から入ると選択肢が狭くなります。まず自社が今どの段階にいるかを決めてください

情報と相談

海外市場の調査資料、国ごとの規制や商習慣の情報、専門家への相談、現地の商談機会の提供などです。多くは無料または低額で利用できます。最初の一歩としてはここから入るのが現実的です。

お金の支援

補助金・助成金のほか、政府系金融機関の融資、信用保証といった仕組みがあります。補助金は原則として返さなくてよい代わりに、公募の時期が決まっていて、審査があり、使い道と報告が細かく定められています。融資は返す必要がありますが、時期を選ばず、使い道の自由度が高い。性格が違いますので、必要な資金の性質で選び分けてください。

リスクへの備え

取引先の不払いや、相手国の事情で代金が回収できなくなるリスクに備える保険の制度があります。こちらは別の記事で扱っています。

2. どこに相談すればよいか

海外展開の支援を担っている公的機関としては、次のようなところがあります。

  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)。海外市場の情報提供、国別の規制や制度の解説、専門家への相談、海外バイヤーとの商談機会の提供などを行っています。ジェトロ
  • 中小企業基盤整備機構(中小機構)。中小企業向けの経営相談、専門家の派遣、各種支援事業を行っています。中小機構
  • 都道府県・市町村の産業振興部門と、地域の商工会議所・商工会。地域ごとに独自の支援制度を設けている場合があります。
  • 取引のある金融機関。海外送金や信用状の実務のほか、現地の提携銀行を紹介してもらえることがあります。

制度の内容と募集の時期は年度ごとに変わります。ここに挙げた機関の最新の案内を直接ご確認ください。

3. 補助金・助成金の探し方

探し方のコツは、先に自社の計画を決めてから制度を探すことです。順番が逆になると、補助金に合わせて計画を作ることになり、本来必要のない支出まで抱え込みます。

  • 何にいくら使うかを先に書き出す。市場調査に◯万円、外国語サイトに◯万円、展示会出展に◯万円、というレベルまで落とします。
  • 補助率と上限額を見る。多くの補助金は補助対象経費の一定割合を補助する仕組みです。残りは自己資金です。
  • 支払いのタイミングを確認する。補助金は事業が終わってから精算払いになることが多く、いったんは全額を自社で立て替えます。ここが資金繰りで効いてきます。
  • 報告の手間を織り込む。実績報告、証拠書類の保存、場合によっては数年間の状況報告が求められます。
  • 締切から逆算する。公募期間は1か月程度しかないことも珍しくありません。

「補助金がもらえるから海外に出る」ではなく、「海外に出ると決めたから使える制度を探す」。この順序を守ってください。

4. 補助金を受け取ったときの税務

ここからが本題です。補助金は、原則として税金の対象になります。返さなくてよいお金である以上、法人税・所得税の計算では収益として扱われます。

いつ益金に算入するか

経費を補塡するために交付を受ける給付金等については、通達が次のように定めています。

法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補塡するために雇用保険法…等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。
(注)法人が定年の延長、高齢者及び身体障害者の雇用等の雇用の改善を図ったこと等によりこれらの法令の規定等に基づき交付を受ける奨励金等の額については、その支給決定があった日の属する事業年度の益金の額に算入する。(法人税基本通達2-1-42)

国税庁法人税基本通達 第2章第1節第7款(2-1-42 法令に基づき交付を受ける給付金等の帰属の時期)

この通達が直接扱っているのは雇用関係の給付金ですが、考え方は押さえておいてください。経費の補塡として受け取るものは、その経費を使った事業年度に対応させる。金額が決まっていなくても見積もる。一方、取組みに対する奨励金の性格のものは、支給が決まった事業年度に計上する。この2つの型があります。

実務では、決算日をまたいで「経費は今期に出したが、補助金の入金は来期」という形になりがちです。経費だけが今期に落ち、収益が来期に立つと、両方の事業年度の利益が実態からずれます。どちらの型に当たるか、交付の要綱を見て判断してください。判断が分かれる場合は顧問税理士に確認してください。

固定資産を買った場合は圧縮記帳ができる

設備や建物など固定資産の取得・改良に充てるために国や地方公共団体から補助金等の交付を受け、その目的に合った固定資産を取得した場合には、圧縮記帳という制度が使えます。受け取った補助金の額まで固定資産の帳簿価額を減らし、同額を損金に算入することで、その事業年度の課税を避ける仕組みです(法人税法42条〜44条)。

圧縮記帳は「税金が消える」制度ではない受け取った国庫補助金等(固定資産の取得に充てたもの)1,000万円同額を固定資産の帳簿価額から減額(圧縮損)▲1,000万円その事業年度の所得への影響0円(課税が繰り延べられる)
帳簿価額が下がる分、翌期以降の減価償却費が減ります。課税の時期をずらす制度です

誤解されやすいのですが、圧縮記帳は税金がなくなる制度ではありません。帳簿価額が下がった分、翌期以降の減価償却費が減りますので、課税の時期が後ろにずれるだけです。それでも、補助金をもらった年に一度に課税されて資金が出ていくことを避けられますので、資金繰りの面では大きな意味があります。

適用の条件は、その補助金等について返還を要しないことが確定していることです。通達は次のように定めています。

(注)補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第15条《補助金等の額の確定等》の規定により交付すべき補助金等の額が確定し、その旨の通知を受けた国庫補助金等は、返還を要しないことが確定した国庫補助金等に該当する。(法人税基本通達10-2-1)

また、同じ通達は、「交付の条件に違反した場合には返還しなければならない」「一定期間内に相当の収益が生じた場合には返還しなければならない」といった一般的な条件が付いていることは、返還を要しないことが確定しているかどうかの判定には関係がないとしています。この種の条件が付いているからといって、圧縮記帳が使えないわけではありません。

国税庁法人税基本通達 第10章第2節 国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳

e-Gov法人税法(42条〜44条 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入等)

経費に充てる補助金は圧縮記帳の対象にならない

圧縮記帳は「固定資産の取得または改良に充てるため」の国庫補助金等を対象とする制度です。市場調査費、翻訳料、展示会の出展料、外国語サイトの制作費といった経費を補塡する補助金は対象になりません。この場合は、対応する経費が損金になり、補助金が益金になります。経費と補助金が同じ事業年度に収まっていれば、結果として所得への影響は補助されなかった部分だけになります。

個人事業者の場合

個人事業者も同じ考え方です。固定資産の取得や改良に充てるために国または地方公共団体から補助金等の交付を受け、その目的に適合した固定資産を取得・改良した場合には、確定申告書に一定の事項を記載することを条件に、その部分に相当する金額を総収入金額に算入しないこととされています。

手続としては、「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」を添付した確定申告書を所轄税務署長に提出します。

国税庁No.2202 国庫補助金等を受け取ったとき


やました君

圧縮記帳を使うには、申告書に明細書を付ける必要があります。決算のときに「補助金が入っていた」と気づいて慌てる例が多い項目です。交付決定の通知を受けた時点で、経理担当と顧問税理士の両方に共有しておいてください。

5. 補助金の消費税は、どう扱うのか

国または地方公共団体から受け取る補助金や助成金は、消費税では不課税です。対価を得て行う取引ではないためです。

国税庁No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例

一方、補助金を使って支払った経費のほうは、通常どおり課税仕入れになります。国内で外注先に翻訳料を払えば、10%の消費税を含めて支払い、その分は仕入税額控除の対象です。補助金でまかなった経費だから控除できない、ということはありません。

なお、補助金の交付要綱では、補助対象経費に含まれる消費税のうち仕入税額控除ができる部分の取扱いを定めていることがあります。制度によって扱いが異なりますので、交付元の要綱をご確認ください。

6. 実務で何に気をつければよいか

  • 交付決定通知と額の確定通知を分けて保管する。圧縮記帳の判定にも、益金の計上時期の判定にも使います。
  • 補助対象経費だけを別に集計できるようにする。会計ソフトの補助科目や部門を使い、実績報告の集計と帳簿を一致させておいてください。
  • 立替期間の資金繰りを見ておく。精算払いの補助金は、いったん全額を自社で払います。
  • 返還の可能性を把握しておく。目的外の使用や条件違反があると返還を求められます。返還が生じた場合の処理は個別の判断になります。
  • 証拠書類の保存期間を確認する。税法上の保存期間と、補助金の要綱が求める保存期間は別のものです。長いほうに合わせてください。

進出の形そのものを決める前であれば、次の記事も併せてご覧ください。

7. まとめ

  • 海外展開の公的支援は、情報と相談・お金の支援・リスクへの備えの3つに分かれる。補助金だけを探さない。
  • 相談先としては、ジェトロ、中小機構、都道府県・市町村、商工会議所・商工会、取引金融機関がある。
  • 補助金は先に計画を決めてから探す。補助率・上限額・支払いの時期・報告の手間を確認する。
  • 経費を補塡する給付金等は、その原因となった事実があった事業年度に、金額が確定していなくても見積もって益金に算入する(法人税基本通達2-1-42)。
  • 固定資産の取得・改良に充てた国庫補助金等は、返還を要しないことが確定していれば圧縮記帳ができる(法人税法42条〜44条)。課税は繰り延べられるだけで、なくなるわけではない。
  • 経費を補塡する補助金は圧縮記帳の対象外。個人事業者は総収入金額不算入の制度がある(所得税法42条・43条)。
  • 補助金は消費税では不課税。補助金でまかなった経費の仕入税額控除は通常どおりできる。

制度は年度ごとに変わります。補助金・助成金の名称、金額、補助率、公募期間、対象となる経費は、毎年見直されます。この記事に書いたのは制度の考え方と税務上の扱いです。実際に利用される際は、最新の情報を各支援機関でご確認ください。

補助金の経理処理や圧縮記帳の判断を確認したい場合

当事務所では、補助金の益金計上時期、圧縮記帳の適用可否、消費税の税区分の確認をご相談いただけます。海外展開に伴う税務全般もあわせてご相談ください。ご相談はこちら

よくある質問

補助金に税金はかかりますか?

かかります。返さなくてよいお金である以上、法人税・所得税の計算では収益として扱われます。消費税だけは、対価を得て行う取引ではないため不課税です。なお、補助金でまかなった経費の仕入税額控除は、通常どおりできます。

補助金は、いつの事業年度の益金になりますか?

経費を補塡するために交付を受ける給付金等は、その原因となった事実があった事業年度に、交付を受けるべき金額が確定していなくても見積もって益金に算入します(法人税基本通達2-1-42)。一方、取組みに対する奨励金の性格のものは、支給決定があった日の属する事業年度です。どちらの型に当たるかは、交付の要綱を見て判断してください。

設備を買うのに使った補助金は、圧縮記帳ができますか?

固定資産の取得・改良に充てるために国や地方公共団体から交付を受け、その目的に合った固定資産を取得した場合はできます(法人税法42条〜44条)。条件は、その補助金等について返還を要しないことが確定していることです。補助金等の額が確定してその旨の通知を受けたものは、これに該当します(法人税基本通達10-2-1)。

圧縮記帳を使えば、税金はかからなくなりますか?

なくなりません。圧縮記帳は、受け取った補助金の額まで固定資産の帳簿価額を減らす制度なので、帳簿価額が下がった分だけ翌期以降の減価償却費も減ります。課税の時期が後ろにずれるだけです。それでも、補助金をもらった年に一度に課税されて資金が出ていくことを避けられる点で、資金繰りの意味は大きくなります。

市場調査費や展示会出展料の補助金も、圧縮記帳の対象ですか?

対象になりません。圧縮記帳は固定資産の取得または改良に充てるための国庫補助金等を対象とする制度だからです。経費を補塡する補助金は、対応する経費が損金になり、補助金が益金になります。経費と補助金が同じ事業年度に収まっていれば、所得への影響は補助されなかった部分だけになります。

<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の補助金の要件・手続は交付元の公募要領および交付要綱によりますので、必ず最新のものをご確認ください。個別の税務判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。