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非居住者の所得控除は数が限られている!

この記事の要点3行でわかる結論

  • 海外に住む非居住者が日本で確定申告をするとき、使える所得控除は「雑損控除」「寄附金控除」「基礎控除」の3つだけです。医療費控除も扶養控除も使えません。
  • 基礎控除の額は二度の改正で動いています。非居住者の場合、令和6年分以前は48万円、令和7年分は58万円、令和8年分以後は62万円が上限です。
  • 居住者だけに認められている上乗せ(基礎控除等の特例)が非居住者には適用されないため、同じ所得でも控除額は居住者より小さくなります。

海外に赴任した、あるいは移住したあとも、日本国内に賃貸不動産がある、日本法人の役員報酬があるといった理由で、日本での確定申告が続く方がいます。このとき見落とされやすいのが所得控除です。日本に住んでいたころに当たり前のように使っていた控除の大半は、非居住者になった時点で使えなくなります。

この記事では、非居住者が使える3つの所得控除をひとつずつ確認し、そのうえで、令和7年度改正と令和8年度改正で二度動いた基礎控除の額を整理します。金額は非居住者と居住者で異なりますので、そこを取り違えないことが今回の要点です。

1. まず「居住者」と「非居住者」を分ける

所得税では、個人をまず居住者と非居住者に分けます。居住者とは、国内に住所がある個人、または現在まで引き続き1年以上国内に居所がある個人です。それ以外の個人が非居住者になります。

ここでいう住所とは、住民票の有無ではなく「生活の本拠」がどこにあるかで判定されます。海外赴任の辞令が1年以上であれば、出国の日の翌日から非居住者として扱われるのが原則です。

まず「居住者」と「非居住者」に分かれる所得税を納める個人居住者国内・国外すべての所得非居住者国内源泉所得だけに課税
国内に住所があるか、引き続き1年以上の居所があるかで判定します

居住者は国内・国外で生じたすべての所得に日本の所得税がかかります。これに対して非居住者は、日本国内から生じた所得(国内源泉所得)だけが課税の対象です。課税される所得の範囲が狭くなる代わりに、所得から差し引ける控除も絞られる、という関係になっています。

国税庁No.2875 居住者と非居住者の区分

国税庁No.2010 納税義務者となる個人

2. 非居住者が使える所得控除は3つだけ

所得控除には医療費控除や扶養控除などいくつもの種類がありますが、非居住者が使えるのは次の3つに限られます。

非居住者に残されている所得控除は3つだけ非居住者が使える所得控除雑損控除国内の資産に限る寄附金控除特定寄附金のみ基礎控除令和8年分以後62万円
医療費控除・生命保険料控除・配偶者控除・扶養控除などは使えません

裏を返せば、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除といった控除は、非居住者では使えません。家族を日本に残して単身で海外赴任している場合でも、扶養控除は取れないということです。

国税庁No.1100 所得控除のあらまし


やました君

出国前と同じ感覚で申告書を作ると、扶養控除や生命保険料控除を入れたまま提出してしまいがちです。非居住者の申告書は、所得控除の欄がほとんど空欄になるのが正しい姿だと考えてください。

3. 雑損控除は「国内にある資産」に限られる

雑損控除は、災害・盗難・横領によって資産に損害を受けたときに、その損失額を所得から差し引く制度です。対象になるのは次の場合です。

  • 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
  • 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
  • 害虫などの生物による異常な災害
  • 盗難
  • 横領

詐欺や恐喝による被害は雑損控除の対象になりません。海外で多いトラブルの型を考えると、この線引きは実務上かなり効いてきます。

国税庁No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

そのうえで、非居住者には追加の制限があります。雑損控除の対象になるのは、日本国内にある資産について生じた損失だけです。居住している国で自宅が被災しても、日本の所得税では控除できません。

国税庁No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合

反対に、日本に住んでいる居住者が国外に持っている資産が被災した場合は、国外資産であっても雑損控除の対象になります。制限がかかるのは非居住者の側だけです。

なお、海外生活のリスクへの備えという意味では、雑損控除をあてにするより、渡航前に海外旅行保険や現地の損害保険を確保しておくほうが確実です。雑損控除は損失額のうち一定の金額を超える部分しか控除できず、そもそも所得がなければ意味を持ちません。

4. 寄附金控除とふるさと納税の注意点

寄附金控除は、国や地方公共団体、特定の公益法人などへの「特定寄附金」を支出したときに使える控除です。非居住者でも使えます。

国税庁No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)

問題はふるさと納税です。ふるさと納税は、所得税の寄附金控除と個人住民税の税額控除を組み合わせることで、実質的な自己負担を抑える仕組みになっています。ところが個人住民税は、その年の1月1日に国内に住所がある人に課される税金です。非居住者には住民税が課されないため、住民税側の控除は生じません。

つまり非居住者のふるさと納税は、所得税の寄附金控除の部分しか効きません。返礼品の価値を考えても、居住者と同じ感覚で行うと持ち出しになります。出国のタイミングでふるさと納税をどうするかは、出国前の年内に済ませるかどうかで結論が変わります。

5. 非居住者の基礎控除はいくらか

3つのうち、いま最も注意が必要なのが基礎控除です。「基礎控除は48万円」という理解は、すでに古い情報です。令和7年度改正と令和8年度改正で、二度続けて引き上げられました。

非居住者の基礎控除額を年分ごとに並べると、次のようになります。

年分非居住者の基礎控除額(合計所得金額2,350万円以下)
令和6年分以前48万円
令和7年分58万円
令和8年分以後62万円

合計所得金額が2,350万円を超える場合は、居住者と同じく48万円、32万円、16万円と段階的に減り、2,500万円を超えるとゼロになります。この部分は今回の改正で変わっていません。

令和8年度改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます。令和8年分の確定申告、つまり2027年(令和9年)の春に提出する申告書から62万円になる、という時間軸です。

国税庁No.1199 基礎控除

国税庁令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について

6. なぜ非居住者だけ金額が違うのか

ここが今回いちばんお伝えしたい論点です。ニュースや解説記事では「基礎控除が最大95万円に」という数字を見かけますが、非居住者にその金額は使えません。理由は、基礎控除がいま二階建てになっているからです。

  • 1階部分 所得税法86条の本則。令和7年分は58万円、令和8年分以後は62万円。
  • 2階部分 租税特別措置法41条の16の2(基礎控除等の特例)による上乗せ。合計所得金額が少ないほど大きく加算されます。

このうち2階部分の特例は、居住者だけに適用されます。非居住者には上乗せがないため、1階部分の本則額がそのまま上限になります。95万円や104万円といった金額は居住者の話であって、非居住者には関係がありません。国税庁のQ&Aでも、その年を通じて非居住者である人の基礎控除額は令和8年分以後62万円(改正前58万円)と明記されています。

国税庁令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(Q6-4 非居住者の場合の基礎控除額)


やました君

例外がひとつあります。年の途中で出国して非居住者になった年は、その年のうちに居住者だった期間があります。この場合、納税管理人を通じて行う確定申告では、合計所得金額に応じて2階部分の特例も適用されます。「出国した年」と「1年を通じて海外にいた年」で扱いが変わる、と覚えてください。

7. 非居住者の申告手続きで何が必要か

非居住者に国内源泉所得があり、源泉分離課税で完結しない場合は、日本で確定申告が必要です。国内に賃貸不動産があるケースが典型で、この場合は日本を離れる前に納税管理人を定め、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出しておきます。届出をしておけば、申告と納税の窓口を日本にいる人に任せられます。

申告期間は居住者と同じく、翌年2月16日から3月15日までです。

国税庁No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合

また、令和8年度改正では扶養親族等の所得要件も58万円以下から62万円以下に引き上げられました。これは扶養する側が居住者である場合の話で、非居住者はそもそも扶養控除を使えません。改正のニュースを自分に当てはめる前に、まず自分が居住者か非居住者かを確認することが先になります。

8. まとめ

  • 非居住者が使える所得控除は、雑損控除・寄附金控除・基礎控除の3つだけ。「ザッ(雑損)・キッ(寄附金)・キー(基礎)」と並べて覚えると漏れません。
  • 雑損控除は国内にある資産の損失に限られる。詐欺・恐喝は対象外。
  • ふるさと納税は住民税側の控除が生じないため、非居住者には向かない。
  • 基礎控除は令和6年分以前48万円、令和7年分58万円、令和8年分以後62万円。48万円のままの説明は古い。
  • 居住者向けの上乗せ(基礎控除等の特例)は非居住者に適用されない。ただし出国した年は居住者期間があるため扱いが変わる。
  • 3つ以外の控除は、居住している国の制度で控除できる可能性がある。現地の税理士・会計士に確認してください。

海外に住みながら日本の確定申告が続く方へ

当事務所では、非居住者の確定申告、納税管理人の就任、出国前後の年の所得区分の整理をお手伝いしています。ご相談はこちら

よくある質問

非居住者でも基礎控除は使えますか?

使えます。ただし居住者だけに認められている上乗せ(基礎控除等の特例)が適用されないため、金額が違います。令和7年分は58万円、令和8年分以後は62万円が上限です(合計所得金額2,350万円以下の場合)。

非居住者は医療費控除や扶養控除を使えますか?

使えません。非居住者が使える所得控除は、雑損控除・寄附金控除・基礎控除の3つだけです。医療費控除のほか、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除なども対象外です。家族を日本に残して単身で海外赴任している場合も扶養控除は取れません。

非居住者でもふるさと納税は得になりますか?

居住者と同じ効果は得られません。ふるさと納税は所得税の寄附金控除と個人住民税の税額控除を組み合わせた仕組みですが、住民税はその年の1月1日に国内に住所がある人にかかるため、非居住者には住民税側の控除が生じません。効くのは所得税の寄附金控除の部分だけです。

非居住者の雑損控除は海外の自宅の被災でも使えますか?

使えません。非居住者の雑損控除の対象は、日本国内にある資産について生じた損失に限られます。また、災害・盗難・横領が対象で、詐欺や恐喝による被害は居住者でも対象になりません。

年の途中で出国した年の基礎控除はどうなりますか?

その年は居住者だった期間があるため、扱いが変わります。納税管理人を通じて行う確定申告では、合計所得金額に応じて居住者向けの基礎控除等の特例も適用されます。1年を通じて非居住者だった年とは結論が異なります。

<注記>この記事は、中小企業の経営者や経理担当者の方に向けて、制度の全体像を分かりやすく説明することを目的としています。細部の要件は省略している箇所があります。個別の判断については、顧問税理士または当事務所にご相談ください。記載内容は2026年9月時点の法令等に基づいています。